Difference between revisions of "UO:2009-03-13: Clainin Awake"
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+ | 「何が起ころうとも」、とカスカ(Casca)が命じたのだった。不機嫌を顔に纏い、彼は命じた。「何者にも警戒せよ。心構えをしておけ。シーツの交換は欠かすな」 | ||
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+ | マロンは不満たらたらにカスカの命を思い出す。昏睡状態の偉大なる魔法使いの看病以外に、いったい何を心配するというのだ。 | ||
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+ | さて、ジェッサ・ルイス(Jessa Leis)はとても優れたヒーラーである。彼女は三週前より看護団の一員となり、患者の心と体を癒す力を発揮してきた。彼女がピクニックバスケットのようなもの持って扉の前に現れた。彼女の厳しくもやさしいエルフの様相は、さもなければ平凡なその場に、すぐに調和をもたらした。マロンは彼女に会えて嬉しかった。 | ||
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+ | 「早いね」彼は彼女の細身の体を部屋に招き入れて言った。いつもはその肩にかかる栗色の彼女の髪は優雅に編まれていた。髪の中には美しい黄金のひもが編みこまれ、カールされて額の後ろでまとめられていた。 | ||
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+ | 「綺麗な髪だ」 彼は、これよりもいいほめ言葉が思いつかなかったので顔をしかめた。 | ||
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+ | 「いや、シーツの染み一つ無い」 | ||
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+ | 「あら良かった。感謝しないと。あの、お昼によければ、と持ってきたんですけど……」 | ||
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+ | ジェッサは振り返り、バスケットを落とし、マロンの肩をしっかりつかんだ。彼女の笑みが膨らみ、マロンは「行きなさい……」という彼女の意思を……その目から感じた。その後彼女に揺さぶられながら、実際の命令が飛んできた。「早くヒザーウィクス様(Father Heatherwix)に患者が起きたって伝えなきゃ!」 | ||
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+ | 全力で駆け出して廊下に飛び出したところでふと我に返ったマロンは、カスカの命を思い起こす。 | ||
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+ | 「何者にも警戒せよ」 | ||
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+ | 若いヒーラーが年長のヒーラーの任務を解くことはない。彼は一呼吸置くと、喉が締め付けられる感じがした。彼の目が再び部屋の薄暗い光に慣れていくにつれて、彼は待ち受けている場面の重大性を認識した。 | ||
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+ | ジェッサは片ひざをついていた。黄金のひもが魔法使いの喉にかかる。魔法使いの青白い肌に青紫色の静脈が浮かびあがり、死が迫っていく様が彼の目に映る。 | ||
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+ | ジェッサが背中を反らせ、繊細な指に絡めたひもに力をかける。 | ||
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+ | 「ガード!……ガードっ!」 | ||
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+ | 混乱の中、考えるまもなくマロンはスツールの足を握りしめ、ジェッサのこめかみを力いっぱいに殴った。彼女は心の底から満足したような「もう遅い!」の一声をあげようとしたが実際には言葉にならず、うめき声と共にクレイニンの上に倒れた。 | ||
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+ | エルフを床にひきずると、マロンはすぐに患者の救護に取り掛かる。 | ||
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+ | ありがたいことに、がらがらと嫌な音を立てて、クレイニンは息を吹き返した。彼はクレイニンの喉から異物を取り除きながら、他に外傷が無いか更に調べる。 | ||
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+ | 目は片時も離さない。だがブーツの音が近づいてくるのが分かる。剣を引き抜く音も聞こえた。 | ||
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+ | 彼の言葉は静かで痛烈、剣呑だった。「連れて行け」ジェッサを示すと、「収容しろ。カスカにも伝えよ。喜ぶだろう。彼が正しかったと知ればな」 | ||
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+ | 伝令の鷹がその報せをもたらす。伝令はカスカの小部屋の窓辺にある止まり木にたたずみ、眼下の庭園を見回している。 | ||
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+ | カスカの口は厳しく引き締まり、報せを手に握り締める。彼の部下達は彼の顔が見る見る渋面に変わるのを見る。「クレイニンが目覚めた。急ぎ、彼をまもれ。ブリタニアの未来に危機が訪れた」 | ||
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+ | カスカの難儀は増すばかりだ。そして今や、レースが始まったのだった。 | ||
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Latest revision as of 18:27, 31 May 2017
Maron sat stirring his cup of water with his finger. Water. Still wet. Not much had changed with the rules of the world or the rasping shape clinging to life in the bed next to him.
He’d read the same book four times in the last month or so. He hadn’t been permitted to leave his solid and miserably made oaken stool with the exception of severe physical need or until released from his thirty hour vigil. Each “Watcher” was given eight hours to sleep after a thirty hour post. Maron had not slept so soundly in his life, nor had he been so completely bored.
“Anything could happen,” Casca.had directed him, his face uncharacteristically dour. “You must be alert, you must be prepared, you must change the bed sheets.”
Maron grumbled with the memory. What was there to worry about when you were nothing but an over-educated nursemaid for a comatose Archmage?
Jessa Leis was a very skilled healer. She’d come to the group of care givers in the last three weeks and had shown more than a bit of talent healing both body and dispositions. She stood in the doorway carrying what seemed to be a picnic basket. Her sharp yet graceful elven features brought an immediate peace to the otherwise dull setting. Maron was glad to see her.
“You’re early,” he managed after taking in her slim form. She’d pulled the chestnut tresses that normally hung about her shoulders, into an elaborate braid, a fine golden cord gathered across her forehead, vanishing in the mass of curled locks behind.
“Nice hair.” He grimaced unable to fashion a better form of compliment.
Her smile pushed from the center of her lips and tugged the corners sweetly as she spoke, “Oh my Maron, that’s four words already today. Do you feel dizzy?” She took a few cautious steps into the room looking over the still bedridden mage. “Nothing today?”
“No. Not even wet sheets.”
“Well that’s something to be thankful for. See what I’ve brought you for lunch …”
And in that moment Clainin stirred, shocking and setting the two healers on their heels as if they’d been beset by rabid mongbat. “By the Virtues,” Jessa whispered.
Jessa spun, dropping the basket, and gripping Maron at his shoulders. Her smile broad, Maron captured something … offsetting in her gaze. “Go …,” she commanded shaking him, “tell Father Heatherwix our charge is awake!”
Maron found himself almost at a sprint before he caught himself a few steps down the hallway. Cascas words catching in his memory.
“You must be alert.”
Younger healers don’t dismiss more senior healers. He paused and felt a knot forming his throat. His mind caught the gravity of the scene awaiting him as his eyes again adjusted to the dim light of the room.
Jessa had pressed one knee into the mages side as the golden cord that had moments before held her hair, was pulled taught around the mage’s throat. His already pale flesh now threaded with blue and bruised veins on a death march toward his bulging eyes.
Jessa’s back arched as the pressure of the cord turned in her delicate fingers.
Part rage, part fear Maron’s voice pierced the normally tomblike silence of the halls, “Guards! … GUARDS!”
In a surge, and without thought, Maron gripped the stool at its legs and smashed the seat across Jessa’s temple. With a viscerally satisfying “thop” she fell in a heap above Clainin.
Shoving the elf to the floor, Maron’s training took over and he set himself to the immediate care of the victim.
Rasping and thankfully choking, he cleared the obstruction from Clainin’s throat looking for further signs of trauma.
Not taking his eyes away, he heard boots gathering in the entryway. The sound of swords returning to sheaths.
His voice was quiet and scalding. Dangerous. “Take that,” he inclined his head toward Jessa, “and feed her to a cell. Send word to Casca. He’ll be happy to know he was right.”
The message arrived in the clutches of a hawk. The courier set itself on its perch just inside the window of Cascas chambers, overlooking the gardens below.
Cascas jaw set tightly, as he turned the parchment in his hands. His ministers stirred seeing his countenance washed with concern. “Clainin is awake. With haste, secure him. The future of Britannia is in danger.”
Cascas troubles seemed to be mounting. And now, the race was on.
マロン(Maron)は座って指でマグの水をかき回していた。水。ぬれる。世界はその法則を変えたわけでもなく、隣のベッドで生にしがみつくそれが姿を変えたわけでもない。
先月は同じ本を四遍も読み直した。どうしても避けられない身体的欲求か、30時間の寝ずの番から開放されるまで、この硬くいやったらしい樫のスツールから離れることは許されなかったのだ。“見張り人”は30時間の番の後、8時間の睡眠が認められていた。マロンにとって、これほど退屈な30時間、そして安らかに眠れる8時間はかつて無かった。
「何が起ころうとも」、とカスカ(Casca)が命じたのだった。不機嫌を顔に纏い、彼は命じた。「何者にも警戒せよ。心構えをしておけ。シーツの交換は欠かすな」
マロンは不満たらたらにカスカの命を思い出す。昏睡状態の偉大なる魔法使いの看病以外に、いったい何を心配するというのだ。
さて、ジェッサ・ルイス(Jessa Leis)はとても優れたヒーラーである。彼女は三週前より看護団の一員となり、患者の心と体を癒す力を発揮してきた。彼女がピクニックバスケットのようなもの持って扉の前に現れた。彼女の厳しくもやさしいエルフの様相は、さもなければ平凡なその場に、すぐに調和をもたらした。マロンは彼女に会えて嬉しかった。
「早いね」彼は彼女の細身の体を部屋に招き入れて言った。いつもはその肩にかかる栗色の彼女の髪は優雅に編まれていた。髪の中には美しい黄金のひもが編みこまれ、カールされて額の後ろでまとめられていた。
「綺麗な髪だ」 彼は、これよりもいいほめ言葉が思いつかなかったので顔をしかめた。
彼女の唇から笑みがこぼれ、その端まで広がると彼女は「あらマロン、今日はもう二言しゃべったわ。うれしいことでもありました?」だが彼女は、部屋に入りつつも、注意深く眠れる魔法使いを観察している。「何かありまして?」
「いや、シーツの染み一つ無い」
「あら良かった。感謝しないと。あの、お昼によければ、と持ってきたんですけど……」
そしてその時、クレイニン(Clainin)が身じろぎしたので、二人はまるで暴れるモンバットを前にしたかのごとく大いに恐れおののいた。「徳の名にかけて」とジェッサはつぶやいた。
ジェッサは振り返り、バスケットを落とし、マロンの肩をしっかりつかんだ。彼女の笑みが膨らみ、マロンは「行きなさい……」という彼女の意思を……その目から感じた。その後彼女に揺さぶられながら、実際の命令が飛んできた。「早くヒザーウィクス様(Father Heatherwix)に患者が起きたって伝えなきゃ!」
全力で駆け出して廊下に飛び出したところでふと我に返ったマロンは、カスカの命を思い起こす。
「何者にも警戒せよ」
若いヒーラーが年長のヒーラーの任務を解くことはない。彼は一呼吸置くと、喉が締め付けられる感じがした。彼の目が再び部屋の薄暗い光に慣れていくにつれて、彼は待ち受けている場面の重大性を認識した。
ジェッサは片ひざをついていた。黄金のひもが魔法使いの喉にかかる。魔法使いの青白い肌に青紫色の静脈が浮かびあがり、死が迫っていく様が彼の目に映る。
ジェッサが背中を反らせ、繊細な指に絡めたひもに力をかける。
怒りと恐れに満ちたマロンの叫びが、普段は墳墓のように静かなホール一帯に響き渡る。
「ガード!……ガードっ!」
混乱の中、考えるまもなくマロンはスツールの足を握りしめ、ジェッサのこめかみを力いっぱいに殴った。彼女は心の底から満足したような「もう遅い!」の一声をあげようとしたが実際には言葉にならず、うめき声と共にクレイニンの上に倒れた。
エルフを床にひきずると、マロンはすぐに患者の救護に取り掛かる。
ありがたいことに、がらがらと嫌な音を立てて、クレイニンは息を吹き返した。彼はクレイニンの喉から異物を取り除きながら、他に外傷が無いか更に調べる。
目は片時も離さない。だがブーツの音が近づいてくるのが分かる。剣を引き抜く音も聞こえた。
彼の言葉は静かで痛烈、剣呑だった。「連れて行け」ジェッサを示すと、「収容しろ。カスカにも伝えよ。喜ぶだろう。彼が正しかったと知ればな」
伝令の鷹がその報せをもたらす。伝令はカスカの小部屋の窓辺にある止まり木にたたずみ、眼下の庭園を見回している。
カスカの口は厳しく引き締まり、報せを手に握り締める。彼の部下達は彼の顔が見る見る渋面に変わるのを見る。「クレイニンが目覚めた。急ぎ、彼をまもれ。ブリタニアの未来に危機が訪れた」
カスカの難儀は増すばかりだ。そして今や、レースが始まったのだった。