Difference between revisions of "UO:2001-12-10: Clash in the Darkness"

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Reincarnation awaited her, of course, though in what form she could not guess. Perhaps not as another Meer, if Kabur's genocide succeeded. Master Adranath seemed convinced that it would. Dasha was not so pessimistic. The answer was moments away. As firelight twinkled on the scales of the reptilian creature, she closed her dark eyes and looked ahead, a sigh of frustration spilling from her lips.
 
Reincarnation awaited her, of course, though in what form she could not guess. Perhaps not as another Meer, if Kabur's genocide succeeded. Master Adranath seemed convinced that it would. Dasha was not so pessimistic. The answer was moments away. As firelight twinkled on the scales of the reptilian creature, she closed her dark eyes and looked ahead, a sigh of frustration spilling from her lips.
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真鍮色に輝く蝋燭の灯火に囲まれて、そのミーア(Meer)とジュカ(Juka)は動物的な激情の叫びを上げながら、激しく戦っていた。怒り狂う戦いの音のみが、忘れ去られた洞窟の濃密な暗闇にこだました。
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ミーアの伝統に則ってダーシャ(Dasha)はケイバー(Kabur)に素手で対峙した。情け容赦ない打撃の連続でそのウォーロードを突き砕き、雹の嵐の様に彼をなぎ倒した。その衝撃が洞窟の暗闇に反響する。強烈なキックを浴びせる度に、腹の中の怒りがどんどん込み上げて来た。パンチを浴びせる度に、ケイバーが破壊した故郷の凄惨さを思い起こした。アドレナリンの刺激が感じられて、彼女はジュカの血の強い匂いを振り払った。戦闘の衝撃が彼女の体を貫いて行く。それが繰り返される度に、彼女の中で復讐への渇望を満たす、本能的で魅惑的な感覚が育っていった。
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彼女は心の何処かで祈った。『ご先祖様、未熟な私をお許し下さい!』
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しかし、ウォーロードの装甲は、まるでミーア独特の攻撃に備えてデザインされているかの様に、彼女の攻撃を撥ねつけた。彼女が彼の兵士達を倒したような、ジュカの弱点を狙った攻撃も功を奏さなかった。彼の強固な体は、いとも簡単に彼女の攻撃を吸収した。お返しと言わんばかりに、彼は素早く熟練した手捌きでハルバードを振りまわすのだった。彼女はそのハルバードの必殺の一振りを、テラサンがオフィーディアンの攻撃をかわすかの様に、ギリギリのところで避けた。途切れない攻撃は彼女の俊敏さを要求した。たった一つのミスでその戦いは終わるところだった。
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立ち位置を間違えたと思った瞬間、全身に寒気が走った。
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ハルバードの刃が彼女の背中に向かってくる。彼女は弧を描くように跳び避けたが、尻に深手を受けた。そのジュカ戦士から離れる為、宙返りをする途中でケイバーの顔を片足で蹴りつけた。彼女は岩の多い地面に倒れこみ、そしてうずくまった。体の右側に激痛が走る。
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ケイバーは血反吐を吐き、息継ぎをして吼えるようにして言った。『洞窟の出口はどこなんだ!?』
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ダーシャは辛うじて目を開けながら言った。『デュエルを放棄するのか?』
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『あと一撃もあればお前は終わりだ。そんな事より、この暗闇をさまよって時間を無駄にしてはおれんのだ。』
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彼女は不平がましく埃を振り払い立ち上がった。呪文の柔かな光りが彼女の傷から痛みを消し去って行く。ヒールの魔法特有の、微かな刺激が全身を駆け抜けた。その少しの間に先祖の魂は、抑えきれない怒りの衝動を鎮めてくれるのであった。突然訪れた冷静さの中で、彼女は今一度ウォーロード・ケイバーを見つめた。全身に汗と血が流れていた為、彼は金色の蝋燭の灯火の揺らめきの中で、何かの化物のようにも見えたし、同時に巨大で底の知れない、何物にも屈しないと言うような尊大さも垣間見えた。彼が犯した罪にも関わらず、ダーシャは彼の戦士としての自尊心に感服した。ジュカは粗暴な生物ではあったが、彼らの性格は誇り高く、高潔な物であった。そのような性格により、彼らは原始的な起源を超え、高度に発達した技術や工業を発展させる事が出来たのだ。勿論、彼らはミーアとは全く異質のものだが、ダーシャのように一部のミーアは、彼らの知的な素養の真価を理解していた。ジュカはミーアとこの世界を分け合いながら、その高度な文明を形成した。
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その種族間の古代からの均衡は脆くも崩れ去った。邪悪な何かがジュカを誇り無き姿へと引きずり込んだのだ。ミーアの知識の長であった師アドラナス(Adranath)は、不可解な魔術師エクソダス(Exodus)がここ10年の間にジュカを蝕んだのだと主張していた。ダーシャもその劇的な変化はエクソダスの呪法によってのみ説明できると思った。彼女はジュカのミーアに対する熾烈な攻撃への報復を練る為に、ウォーロード・ケイバーから直接、その変化がどのようにして起ったのか問い質す為にここまでやって来たのだ。
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彼女は込み上げる怒りを飲み込み、呼吸を落ち着かせて言った。『教えてくれケイバーよ。エクソダスはどのようにしてジュカの営みを葬ったのだ。』
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彼はハルバードを振り下ろし、苦い顔をして言った。『ミーアの知った事ではない。』
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『お前の新しい主人は、お前達を奴隷にしてしまうような呪文を掛けたのか?それ以外、ジュカと誇りとを切り離す手立てなど無いはずだ。』
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『ジュカの誇りは未だ存在する!尤も、エクソダス様がいらして若干変わりはしたがな。』嘲りさえ含ませて、彼は目を細めた。『お前達の種族には革命という考えが無いのだろう?お前達には歴史が不動のものだと思っている節があるな。』
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彼女は苦々しく笑みを浮かべた。『ブラック・デュエル(Black Duel)を待ち伏せの罠に使っておきながら、よくそんな事が言えるな。』
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『お前が個人的な会話の道具としようとしたのと同じ事だ。ブラック・デュエルは廃れた。もはや原始時代の遺物なのだ。お前の知るやり方は滅んだのだ。共に間もなく、ミーアも終焉を迎えるのだ。』
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彼女は頭を振って応えた。『エクソダスはお前達を罠に掛けた。だが、ひょっとしたらその侵食は完了していないのかもしれない。』
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『お前と話す事は無い。』そのジュカは大声で唸る様に言った。『その妄想を墓まで持っていくがいい!』
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彼は最後の一撃を加えるべくハルバードを振り上げた。ダーシャは身を屈めた。次の瞬間、暗い洞窟に雷鳴が轟いた。戦っている双方が凍りついた。何か巨大な、獣のようなものが二人の近くにある通路部分を通り過ぎた。顔をしかめながら彼女は考えた。ここに居るのは人間だけではなさそうだ。
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ケイバーのハルバードが彼女の前に素早く振り落とされた。後ろに退くのが遅すぎた。その刃は胸の鎧を切り裂き、その下の肉をも切り裂いた。血が流れ出す度に、蝋燭に照らされて煌いた。彼女はその痛みに叫び声を上げた。そして、とんぼ返りをしようとしたが、傷は彼女の片手を使い物にならなくしていた。彼女はその場に崩れ落ちる。そのジュカの次の一撃は、彼女の肩に向け地滑りの様に撃ちつけられた。それと同時に彼女は、固い地面へと叩きつけられた。激しい苦痛のみが彼女の体を支配する。手足は凍り付き、動く事を拒んだ。
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はらわたの中で激しい怒りが猛り狂うが、傷が思うようにさせてくれない。血が滴り落ちる度に自分の体の不自由を呪った。彼女は心の中で叫んだ。ご先祖様、貴方達のせいで…!それと反対の事こそ真実とは解りながら。
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彼女の頭上にウォーロード・ケイバーがぼんやりと見えた。彼の武器はまさに最後の一撃を加えようとしているところであった。殆ど頭を動かす事は出来なかったが、最後の力を振り絞り、そのエメラルドの皮膚をした巨人を侮蔑した。『ジュカが成し遂げてきた事も、お前のせいで台無しだな!』
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その将軍の目に怒りが充満した。『私は未来を守ろうとしているのだ!だが、ミーアは来るべき危機に思いを寄せるには、余りにも自己の事のみ考えすぎるのだ。お前達の言う”2種族間の均衡”なるものは、要するに停滞以外の何物でもない。我々は終わる事のない対立の為に何世代も費やしてしまった。その間に、ガーゴイルや人間共はより知恵をつけ、勢力を拡大していった。しばらくすれば我々の脅威となるだろう。ダーシャよ、この世界は変わりつつあるのだ。ジュカもそれに合わせねばならん。さもなければ滅亡あるのみだ。それこそ我々がかつてのやり方を捨てた理由であり、ミーアを滅ぼす理由でもあるのだ。生き抜く為に我々は支配せねばならん。これこそエクソダス様が授けてくださった御智慧なのだ。』
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『不名誉は高貴な羽を身に纏う。』彼女はケイバーを苛立たせるかの様に言った。『が、賢者はそれに惑わされない。』
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ケイバーは鼻息を荒立たせて怒った。一瞬で彼女の首に向けてハルバードを振り上げた。その時彼は手を止め、その尖った耳を澄ました。重苦しい響きが暗闇の中を移動している。洞窟の中の獣が、その音を響かせながら近くまで来ていた。
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『勝手に判断するがいい。』そのウォーロードは雷のように叫んだ。『その妄想はお前達を救いはせぬ。』
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そしてすぐ、彼は闇の中へと消えて行った。彼女は彼の足音が遠のいていくのを感じたが、それに代わって巨大な何かが近づいてくるのを感じた。その生物は漆黒の闇の中、辺りの臭いを嗅いでいた。鋭い爪が繰り返し石に擦れる音がした。
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彼女にはヒールの呪文を唱える力は残されていなかった。防御すらままならなかった。ほんの僅かの間、そのモンスターを近寄らせないようにする為に、精々蝋燭の輪の中心に這って行く事しか出来なかった。しかしその努力の意味も疑わしかった。彼女の使命は失敗したのだ。エクソダスは、ジュカを強力に束縛していたのだ。ケイバーは充分エクソダスに侵されている。それが為に彼はダーシャに潔い死すら与えず、獣に貪り食わせる為に彼女を残していったのだ。
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どのような形なのかは彼女にも分からなかったが、勿論の事転生が彼女を待っていた。ケイバーの殺戮が効を奏すならば、ミーアとしてではないであろう。師アドラナスは確信していたようだった。しかしダーシャはそれほど悲観的ではなかった。その答えはすぐに消え去ってしまった。蝋燭の灯火がその生物の鱗を映し出した時、彼女の唇からは不満気なため息が漏れた。正面を向いて、黒曜石の様な目を閉じた。
  
 
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Latest revision as of 09:26, 31 May 2017


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Global Edition


Clash in the Darkness / 闇の激突

Author: Austen Andrews Published: December 10, 2001



Note: This is part of an overall story titled 'A Tale of Revenge' which was written to introduce the Lord Blackthorn's Revenge expansion.

A Tale of Revenge
Chapter 1: Beginnings
Chapter 2: The Challenge
Chapter 3: Clash in the Darkness
Chapter 4: The Beast
Chapter 5: Revenge
Chapter 6: Inferno
Chapter 7: Change
Chapter 8: The Watcher

In a ring of brassy candlelight, the Meer and the Juka charged one another with howls of animal rage. The dense gloom of a forgotten cavern echoed the furious sounds.

In the style of the Meer, Dasha faced Kabur unarmed. She struck him like a hailstorm, pounding the warlord with a stream of relentless blows. The impacts resounded through the blackness of the cave. With every potent kick she landed, the anger in her belly roared hotter. With every punch she felt an inferno like the forest Kabur had destroyed. She whiffed the tang of Jukan blood, tasted the sting of adrenaline. The percussion of combat rebounded through her body, a primal, seductive sensation that fueled her hunger for revenge.

Somewhere inside she prayed, Ancestors, forgive my weakness of discipline!

Yet the warlord's heavy armor resisted her attacks as if designed for a Meer's unique tactics. She could not crush its weak points as she had done against his soldiers. His massive body absorbed her blows with terrible ease. In response he wheeled his halberd in a swift, skillful display. She ducked the polearm like a mongoose evades a cobra, always inches from its lethal touch. The constant motion challenged her agility. A single mistake would end the battle.

A chill tore through her when she sensed a misstep.

The spike of the halberd rushed at her back. She sprang above its arc but the weapon slashed her hip. She kicked one foot into Kabur's face, pushing into a somersault that carried her away from the Jukan warrior. She tumbled over the rocky ground, rolled into a crouch. Her right side burned with pain.

Kabur spat blood, caught his breath and barked, “Where is the mouth of this cave?”

Dasha squinted. “You're withdrawing from the duel?”

“Another blow finishes you. I would rather not waste time searching in the dark.”

She grunted and rose to her feet. The soft light of a spell drove the ache from her wound. The familiar tingle of healing magic streamed through her body. For a brief moment the spirits of the ancestors quelled her rage to a simmer. In that rush of calm she examined Warlord Kabur anew. Streaked with sweat and blood, he was a wild apparition in the golden flutter of candlelight, huge and fearsome and stubbornly arrogant. Despite the crimes he had committed, Dasha admired his warrior's ego. The Juka were brutal creatures but their nature was proud and honorable. It had allowed them to transcend their primitive origins and develop advanced arts and industry. They were no equals of the Meer, of course, but some, like Dasha, appreciated their sophistication. The Juka formed the only true civilization with whom the Meer shared this world.

Yet the ancient balance between the races was quickly falling apart. Something wicked was dragging the Juka back to an honorless condition. Master Adranath, the Meer Lore Master, claimed that the mysterious sorcerer Exodus had corrupted them over the last decade. Dasha agreed that only sorcery could account for the startling change. She had come here to learn from Warlord Kabur how the transformation had occurred, so that she could plan a response to the Jukas' devastating attack on her people.

She swallowed her anger and steadied her breathing. “Tell me, Kabur, how did Exodus murder the Jukan Way?”

He glowered past the blade of his halberd. “It is not the concern of a Meer.”

“Has your new lord cast a spell to enslave your minds? Nothing less could separate a Juka from his honor.”

“The honor of the Juka is intact, woman! Though it has changed since Exodus came to us." His eyes narrowed with contempt. "But your kind has no knowledge of evolution, do they? You pretend that time has no teeth.”

She chuckled without humor. “Your honor is suspect if you use the Black Duel as a ruse to ambush me.”

“Just as you used it to lure me into a private conversation. The Black Duel is obsolete, a relic of a primitive age. The Way you know is dead. The Meer shall soon die with it.”

She shook her head. “Exodus has ensnared you. But perhaps the corruption can be undone.”

“I shall not discuss it further," rumbled the Juka. "Take your delusions to the grave!”

He hoisted the polearm for another blow. Dasha lowered herself into a defensive stance. In the next instant the dark cave shook with a thunderous growl. Both combatants froze. Something large and bestial was passing through a nearby corridor. With a grimace she thought, It seems that humans are not the only beasts lurking in these mountains.

Kabur's halberd swept upon her. Too late she threw herself backward. The blade tore across her chest armor, parting the flesh underneath. Blood glistened as it flew through the candlelight. She cried out and attempted a handspring but her injury rendered one arm useless. She crumpled into the dust. The Juka's next stroke hit like a landslide on her shoulder, smashing her against the hard ground. Agony seized her body. Her limbs turned icy and refused to move.

Fury rampaged inside her gut but the injury had paralyzed her body. She cursed her flesh for disobedience as blood tumbled out into the cave. Silently she screamed You have failed me, ancestors! though she knew the reverse was true.

Above her loomed Warlord Kabur, his weapon poised for the final cut. Though she could barely lift her head, she sneered up at the emerald-skinned giant, “You defile everything the Juka have achieved!”

The general's eyes lit with anger. “I am defending the future! But the Meer are too self-absorbed to see the coming danger. What you call a 'balance between two races' is nothing more than useless stagnation. We have squandered generations on unresolved conflict. In the meantime the gargoyles and the humans have grown smarter and more numerous. Soon they shall threaten us. The world is changing, Dasha. The Juka must adapt or we shall perish. That is why we have discarded the Way and resolved to crush the Meer. To survive, we must dominate. This is the wisdom Exodus brought to us.”

“Dishonor wears noble plumage," she rasped, "but the wise man is not dazzled.”

Kabur snorted. In a quick action he raised his halberd above her neck. Then he paused. His pointed ears twitched. A heavy sound plodded in the darkness. The beast in the cave was lumbering nearer.

“Judge me how you will," grumbled the warlord. "Delusions will not save you.”

Then he vanished into the shadows. She sensed his footfalls receding as something much larger approached. The creature's breath snuffled in the thickness of the gloom. Its claws brushed the stone with a sharp, repeating sound.

She could not muster the strength for a healing spell, much less for defense. At best she might crawl to the center of the ring of candles, to keep the monster at bay for a few seconds more. But the effort would be moot. Her mission here had failed. Exodus had a powerful hold on the Juka. Kabur was so corrupt that he had even denied her a quick death, leaving her instead to be devoured by a predator.

Reincarnation awaited her, of course, though in what form she could not guess. Perhaps not as another Meer, if Kabur's genocide succeeded. Master Adranath seemed convinced that it would. Dasha was not so pessimistic. The answer was moments away. As firelight twinkled on the scales of the reptilian creature, she closed her dark eyes and looked ahead, a sigh of frustration spilling from her lips.




真鍮色に輝く蝋燭の灯火に囲まれて、そのミーア(Meer)とジュカ(Juka)は動物的な激情の叫びを上げながら、激しく戦っていた。怒り狂う戦いの音のみが、忘れ去られた洞窟の濃密な暗闇にこだました。

ミーアの伝統に則ってダーシャ(Dasha)はケイバー(Kabur)に素手で対峙した。情け容赦ない打撃の連続でそのウォーロードを突き砕き、雹の嵐の様に彼をなぎ倒した。その衝撃が洞窟の暗闇に反響する。強烈なキックを浴びせる度に、腹の中の怒りがどんどん込み上げて来た。パンチを浴びせる度に、ケイバーが破壊した故郷の凄惨さを思い起こした。アドレナリンの刺激が感じられて、彼女はジュカの血の強い匂いを振り払った。戦闘の衝撃が彼女の体を貫いて行く。それが繰り返される度に、彼女の中で復讐への渇望を満たす、本能的で魅惑的な感覚が育っていった。

彼女は心の何処かで祈った。『ご先祖様、未熟な私をお許し下さい!』

しかし、ウォーロードの装甲は、まるでミーア独特の攻撃に備えてデザインされているかの様に、彼女の攻撃を撥ねつけた。彼女が彼の兵士達を倒したような、ジュカの弱点を狙った攻撃も功を奏さなかった。彼の強固な体は、いとも簡単に彼女の攻撃を吸収した。お返しと言わんばかりに、彼は素早く熟練した手捌きでハルバードを振りまわすのだった。彼女はそのハルバードの必殺の一振りを、テラサンがオフィーディアンの攻撃をかわすかの様に、ギリギリのところで避けた。途切れない攻撃は彼女の俊敏さを要求した。たった一つのミスでその戦いは終わるところだった。

立ち位置を間違えたと思った瞬間、全身に寒気が走った。

ハルバードの刃が彼女の背中に向かってくる。彼女は弧を描くように跳び避けたが、尻に深手を受けた。そのジュカ戦士から離れる為、宙返りをする途中でケイバーの顔を片足で蹴りつけた。彼女は岩の多い地面に倒れこみ、そしてうずくまった。体の右側に激痛が走る。

ケイバーは血反吐を吐き、息継ぎをして吼えるようにして言った。『洞窟の出口はどこなんだ!?』

ダーシャは辛うじて目を開けながら言った。『デュエルを放棄するのか?』

『あと一撃もあればお前は終わりだ。そんな事より、この暗闇をさまよって時間を無駄にしてはおれんのだ。』

彼女は不平がましく埃を振り払い立ち上がった。呪文の柔かな光りが彼女の傷から痛みを消し去って行く。ヒールの魔法特有の、微かな刺激が全身を駆け抜けた。その少しの間に先祖の魂は、抑えきれない怒りの衝動を鎮めてくれるのであった。突然訪れた冷静さの中で、彼女は今一度ウォーロード・ケイバーを見つめた。全身に汗と血が流れていた為、彼は金色の蝋燭の灯火の揺らめきの中で、何かの化物のようにも見えたし、同時に巨大で底の知れない、何物にも屈しないと言うような尊大さも垣間見えた。彼が犯した罪にも関わらず、ダーシャは彼の戦士としての自尊心に感服した。ジュカは粗暴な生物ではあったが、彼らの性格は誇り高く、高潔な物であった。そのような性格により、彼らは原始的な起源を超え、高度に発達した技術や工業を発展させる事が出来たのだ。勿論、彼らはミーアとは全く異質のものだが、ダーシャのように一部のミーアは、彼らの知的な素養の真価を理解していた。ジュカはミーアとこの世界を分け合いながら、その高度な文明を形成した。

その種族間の古代からの均衡は脆くも崩れ去った。邪悪な何かがジュカを誇り無き姿へと引きずり込んだのだ。ミーアの知識の長であった師アドラナス(Adranath)は、不可解な魔術師エクソダス(Exodus)がここ10年の間にジュカを蝕んだのだと主張していた。ダーシャもその劇的な変化はエクソダスの呪法によってのみ説明できると思った。彼女はジュカのミーアに対する熾烈な攻撃への報復を練る為に、ウォーロード・ケイバーから直接、その変化がどのようにして起ったのか問い質す為にここまでやって来たのだ。

彼女は込み上げる怒りを飲み込み、呼吸を落ち着かせて言った。『教えてくれケイバーよ。エクソダスはどのようにしてジュカの営みを葬ったのだ。』

彼はハルバードを振り下ろし、苦い顔をして言った。『ミーアの知った事ではない。』

『お前の新しい主人は、お前達を奴隷にしてしまうような呪文を掛けたのか?それ以外、ジュカと誇りとを切り離す手立てなど無いはずだ。』

『ジュカの誇りは未だ存在する!尤も、エクソダス様がいらして若干変わりはしたがな。』嘲りさえ含ませて、彼は目を細めた。『お前達の種族には革命という考えが無いのだろう?お前達には歴史が不動のものだと思っている節があるな。』

彼女は苦々しく笑みを浮かべた。『ブラック・デュエル(Black Duel)を待ち伏せの罠に使っておきながら、よくそんな事が言えるな。』

『お前が個人的な会話の道具としようとしたのと同じ事だ。ブラック・デュエルは廃れた。もはや原始時代の遺物なのだ。お前の知るやり方は滅んだのだ。共に間もなく、ミーアも終焉を迎えるのだ。』

彼女は頭を振って応えた。『エクソダスはお前達を罠に掛けた。だが、ひょっとしたらその侵食は完了していないのかもしれない。』

『お前と話す事は無い。』そのジュカは大声で唸る様に言った。『その妄想を墓まで持っていくがいい!』

彼は最後の一撃を加えるべくハルバードを振り上げた。ダーシャは身を屈めた。次の瞬間、暗い洞窟に雷鳴が轟いた。戦っている双方が凍りついた。何か巨大な、獣のようなものが二人の近くにある通路部分を通り過ぎた。顔をしかめながら彼女は考えた。ここに居るのは人間だけではなさそうだ。

ケイバーのハルバードが彼女の前に素早く振り落とされた。後ろに退くのが遅すぎた。その刃は胸の鎧を切り裂き、その下の肉をも切り裂いた。血が流れ出す度に、蝋燭に照らされて煌いた。彼女はその痛みに叫び声を上げた。そして、とんぼ返りをしようとしたが、傷は彼女の片手を使い物にならなくしていた。彼女はその場に崩れ落ちる。そのジュカの次の一撃は、彼女の肩に向け地滑りの様に撃ちつけられた。それと同時に彼女は、固い地面へと叩きつけられた。激しい苦痛のみが彼女の体を支配する。手足は凍り付き、動く事を拒んだ。

はらわたの中で激しい怒りが猛り狂うが、傷が思うようにさせてくれない。血が滴り落ちる度に自分の体の不自由を呪った。彼女は心の中で叫んだ。ご先祖様、貴方達のせいで…!それと反対の事こそ真実とは解りながら。

彼女の頭上にウォーロード・ケイバーがぼんやりと見えた。彼の武器はまさに最後の一撃を加えようとしているところであった。殆ど頭を動かす事は出来なかったが、最後の力を振り絞り、そのエメラルドの皮膚をした巨人を侮蔑した。『ジュカが成し遂げてきた事も、お前のせいで台無しだな!』

その将軍の目に怒りが充満した。『私は未来を守ろうとしているのだ!だが、ミーアは来るべき危機に思いを寄せるには、余りにも自己の事のみ考えすぎるのだ。お前達の言う”2種族間の均衡”なるものは、要するに停滞以外の何物でもない。我々は終わる事のない対立の為に何世代も費やしてしまった。その間に、ガーゴイルや人間共はより知恵をつけ、勢力を拡大していった。しばらくすれば我々の脅威となるだろう。ダーシャよ、この世界は変わりつつあるのだ。ジュカもそれに合わせねばならん。さもなければ滅亡あるのみだ。それこそ我々がかつてのやり方を捨てた理由であり、ミーアを滅ぼす理由でもあるのだ。生き抜く為に我々は支配せねばならん。これこそエクソダス様が授けてくださった御智慧なのだ。』

『不名誉は高貴な羽を身に纏う。』彼女はケイバーを苛立たせるかの様に言った。『が、賢者はそれに惑わされない。』

ケイバーは鼻息を荒立たせて怒った。一瞬で彼女の首に向けてハルバードを振り上げた。その時彼は手を止め、その尖った耳を澄ました。重苦しい響きが暗闇の中を移動している。洞窟の中の獣が、その音を響かせながら近くまで来ていた。

『勝手に判断するがいい。』そのウォーロードは雷のように叫んだ。『その妄想はお前達を救いはせぬ。』

そしてすぐ、彼は闇の中へと消えて行った。彼女は彼の足音が遠のいていくのを感じたが、それに代わって巨大な何かが近づいてくるのを感じた。その生物は漆黒の闇の中、辺りの臭いを嗅いでいた。鋭い爪が繰り返し石に擦れる音がした。

彼女にはヒールの呪文を唱える力は残されていなかった。防御すらままならなかった。ほんの僅かの間、そのモンスターを近寄らせないようにする為に、精々蝋燭の輪の中心に這って行く事しか出来なかった。しかしその努力の意味も疑わしかった。彼女の使命は失敗したのだ。エクソダスは、ジュカを強力に束縛していたのだ。ケイバーは充分エクソダスに侵されている。それが為に彼はダーシャに潔い死すら与えず、獣に貪り食わせる為に彼女を残していったのだ。

どのような形なのかは彼女にも分からなかったが、勿論の事転生が彼女を待っていた。ケイバーの殺戮が効を奏すならば、ミーアとしてではないであろう。師アドラナスは確信していたようだった。しかしダーシャはそれほど悲観的ではなかった。その答えはすぐに消え去ってしまった。蝋燭の灯火がその生物の鱗を映し出した時、彼女の唇からは不満気なため息が漏れた。正面を向いて、黒曜石の様な目を閉じた。