Difference between revisions of "UO:2002-09-12: Crazy Miggie"

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With that, he turned and walked into the night.
 
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これは、シナリオ第1週の物語の、追加ストーリーです。
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トリンシックのケグ&アンカー(The Keg and Anchor)は、旅人が気軽に立ち寄り、冷たいエールと健康的な食事で英気を養う、そんな落ち着いた店だった。従業員たちは、のんびり落ち着いた店の雰囲気を大切にしていた。彼らはよく、気の利いたジョークを飛ばし、面白い話を聞かせては客を楽しませてくれたものだ。この店は、激しく過酷な戦いの日常を忘れ、パブの暖かい雰囲気の中でチェスや人気のダイスゲームに興じることができる、格好の夜の隠れ家として、旅なれた一流の冒険家たちの間でも評判だった。
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だが、そんな落ち着いた店の雰囲気をぶち壊す問題がひとつだけあった。クレージー・ミギー(Crazy Miggie)だ。ミギーがどこの馬の骨で、そもそも彼がなぜ"クレージー"になったかを知る者は、ケグ&アンカーの常連たちの中にもいなかった。と言うより、客たちにとれば、何杯か腹に流し込んでしまえば忘れてしまうような事柄だったのである。世間に名の知れた乞食がみなそうであるように、ミギーにも誇大妄想の気があった。彼は、このブリタニアに降りかかったすべての災厄は、恐ろしくて口に出せないほどの悪い連中が彼を狙って引き起こしたものだと信じて疑わない。
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ミギーはまさに"頭のイカレた乞食"という形容がよく似合う人物だった。まるで彼自身が学者チームを雇い、さらにブリタニア全土で『頭のイカレた乞食に必要なものは何か』というアンケートを実施するなどして入念に調査を行ったのではないかと思わせるほど、ぴったりはまっていた。ぼさぼさの灰色の髪は、雷に撃たれた直後のようにあらゆる方向に逆立ち、衣服からは、伝染病で死んだ動物の肉で洗ったかのような異臭を放っていた。顔には迷路のように皺が走り、片方だけの目は皺によって半分閉じかかっていた。どう贔屓目に見ても、醜い男だった。人々は、極力彼を避けて歩いた。モンバットですら、できる限り彼には関わらないようにしていた。
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にも関わらず、ミギーはケグ&アンカーの常連客のお馴染みであった。彼が興奮して店に飛び込んでくるのを、客たちは嫌がるどころか、むしろ楽しみにしていたほどだ。とくに、娯楽に飢え、どんな小さなことでも楽しもうとしている連中の間では格好の暇つぶしの対象だったのである。彼は、殺されそうな悲鳴をあげながら誰もいない店に走り込んでくることがよくあった。また、とても警戒心が強く、夜が相当に更けてから現れる傾向があった。
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トリンシック全土に対するミナックス(Minax)の猛攻撃が去り、町は次第に日常を取り戻していった。ケグ&アンカーも例外ではなく、店を再開した日には、多くの常連客がほろ酔い気分の一晩を楽しもうと戻ってきた。警備兵のロジャー(Rodger)は、いつもの席でくつろぎ、けたたましく大笑いする合間にぐーっとエールを飲み干していた。魔法使いのレッジと相棒の戦士ラルはカウンターに陣取り、代わる代わる酒を注文しては、バーテンのサミュエルと話を聞かせ合っていた。町中がアンデッドに襲われた後でもあり、彼らにはくつろぐ必要があった。彼らは、くつろぐことにかけてはプロだった。もしこれが商売だったなら、彼らはかなり稼いでいたことだろう。そんな、誰よりもくつろいでいた彼らだけに、クレイジー・ミギーがまるで狂気の化身であるかのようにドアから飛び込んできたときには、いささか驚いた。
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『ミナックスだぁ!あいつが出た!みんな逃げろ!この町を乗っ取りに、死んだ亭主といっしょに攻めてきたんだ。パンの匂いだ!焼きたてのパンの……、みんな殺されるぞ!』ミギーはロジャーのチュニックを掴んで体を揺さぶろうとしたが、衛兵の巨体はびくともせず、反対にミギーだけがバタバタと暴れているように見えた。
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ロジャーはエールを吐き出しそうになって言った。『頼むよ、おっさん!ミナックスは2週間前に追い払ったよ。今すぐその臭い手を離さないと、オレのハルバードで切り落としてやるぞ!』
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『そりゃあいい、ロジャー!』バーのあたりからレッジ(Ledge)が茶々を入れた。『そのハルバードが、モンバットを追い払う以外に役に立つところを見てみたいもんだ!』
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ラル(Rul)が大声で笑いながらバーテンのサミュエル(Samuel)を振り返った。『お代わりはちょっとお預けだ。このミナックス事件を放ってはおけないからな。ミギー、そこへ案内してくれ!オレが彼女をこちょこちょして町から追い払ってやる。いい女だからな』彼はそう言うと、くすくすと笑った。
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『ラル、お前のカミさんが今のを聞いたら、何ていうかな?』レッジが言った。
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『女房だと?女房め!そうか、なんか忘れてると思ったよ。サミュエル、やっぱりお代わりだ。オレにはこっちのほうがいい』ラルとレッジは笑い転げた。その間、ロジャーは、なるべくミギーに触れないようにして彼を追い払うことに苦労していた。
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『見たんだよ!すぐ外に立ってるんだ!ああ、徳のご加護がありますように。みんな殺されてしまうー!』ミギーは大声で叫ぶと、芝居がかった様子で自分で自分のシャツを引き裂いた。店の客たちはミギーの聞き苦しい声に顔をしかめたが、バーテンのサミュエルは、とっくに馴れっ子だった。
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『わかったよ、ミギー。外で聞こう。恐ろしいミナックスを見に行こうじゃないか。あんたが下戸で助かったよ。ほら』サミュエルは汚れたナプキンをミギーの肩にかけ、その上から手を置いて、ミギーを店の出口へと誘導した。そして、ミギーの体でドアを押し開けさせ、店から数歩離れた場所まで連れ出した。店の中からは、一斉に椅子を引く音が聞こえてきた。彼らは窓のところに固まり、興味深げに事の成り行きを見学していた。『それで、どこにいる?』
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『あれだ!ほら!おお、ミナックス様。お助けください!命だけはご勘弁を!何でも言うことは聞きます。あなたの死んだご亭主の餌にしないでください!』サミュエルは通りを見渡して、目を瞬かせた。そこでは、洗濯の水を通りに捨てた仏頂面の老婦人が、こちらを睨み返していた。
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『すいません、ブリンスタイン(Brinstein)さん。ミギーがふざけてるんですよ。ご主人によろしくお伝えください』ブリンスタイン婦人は恐ろしいうなり声をあげた。その声には、オオカミの群のリーダーをも震え上がらせるほどの凄味があった。『さあ、ミギー。今夜はもう店には来ないでくれよ。それから、営業時間中に生ゴミを漁るのもナシだ』
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サミュエルは、ナプキンを乗せたままのミギーの肩を軽く押し出した。ミギーは恐ろしいブリステイン婦人の目を見つめた。そして、ナプキンを彼女に投げつけると、命乞いを叫びながら夜の闇の中に転げ込むようにして消えていった。店の中からは大きな笑い声が響いてきた。
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『エクソダス(Exodus)だぁー!殺されるぞ、逃げろー!エクソダスの手下の金属人間が追いかけてきた!オレを金属人間に改造しようとしてるんだ!怖い怖いガーゴイルが一日中オレにつきまとってるんだよー!』ミギーはパブに転がり込むと床に伏せて、ガタガタと体を震わせながら両手で頭を覆った。まるで地震の魔法に襲われた人のようだった。
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サミュエルは、マグカップを磨く手元から目も離さずに言った。『それなら3週間前にやっつけたじゃないか、ミギー』
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『いや、違う!でっかいボーレム(Bolem)が怒って追いかけてきたんだ!』ミギーは、自分の体の臭いを周囲に撒き散らそうとでもするかのように、両手をばたばたさせて反論した。
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『ゴーレム(Golem)だ、ミギー。ゴーレムだよ』バーの椅子に腰掛けたレッジが口を挟んだ。『エクソダスはもうゴーレムを送り込んだりはしないよ。ヤツにはもう、ゴーレムを作らせる奴隷が一人もいないんだからな』
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『ガーゴイルは悪い連中じゃないぜ!』とラルは付け加え、ビールの最後の一口をすった。『オレはレッジとガーゴイルの都に行ったことがあるが、きれいなところだった。そこで飲んだくれようって気にはなれなかったがな』
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レッジは黙ってラルに同調してうなづき、何かを目で訴えながら部屋の反対側にいるロジャーに向かって言った。『なあ、ロジャー。お前も町の警備兵なんだろ。ぼんやりしてないで、ほら……ミギーを店の外に連れていって、何も怖がることはないって安心させてやったらどうなんだ?』
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『まだオレはビールを飲んでるんだ。それに、そういうことはサミュエルの……あ、ああ、そうか!オレは警備兵だもんな。市民の安全を守るのがオレの義務なんだったよな。行こう、ミギー。誰もあんたを追いかけてなんかいないってことを、オレが証明してやるよ』ロジャーは震えるミギーをハルバードの柄で突付き、彼を立たせた。
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レッジとラルはほとんどひっくり返りそうになりながらも、必死に笑いをこらえていた。ロジャーはミギーを突付きながら店の入り口の外まで追い出すと、間もなく建物全体を揺るがすような大きな悲鳴が聞こえた。そして、異臭を放つ灰色の髪の毛が2つの窓の前を猛スピードで通過していった。レッジとラルは、笑いをこらえ切れずに椅子から転げ落ちんばかりに身もだえした。
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『サミュエル、オレからレッジに1杯やってくれ』ロジャーはニヤニヤ笑いながら言った。『お前の勝ちだよ。お前のゴーレムの術がかなり利いたようだ』
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遠くから響いてくる常軌を逸したミギーの叫び声は、店の中にまで聞こえてきた。その声は次第に近づき、店の戸口で止まった。ちょうど、見たこともないほどピカピカに磨き上げられた鎧の手が店のドアを開けたところだった。鎧の主は、若くてハンサムな戦士だった。腰に眩いばかりに色づけされた剣と鞘を下げている。まるで英雄とドラゴンが登場する子供のおとぎ話から抜け出たような、英雄然とした男だ。ミギーは、興奮した子犬のように、彼の周りをぴょんぴょんと飛び跳ねた。
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『アリだよ!家ぐらいあるでっかいアリの大群だぁ!すんごくでっかくて、人間なんかペロっと食っちまう!そいつらが、オレを食おうと追いかけてきたんだよー!』ミギーは、話を聞いてくれる新しい人間が現れたことに狂喜していた。すでに酒の回っているケグ&アンカーの常連たちは、鏡面仕上げの鎧に映り込んだ飛び跳ねるミギーの姿をぼんやりと眺めていた。
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『いらっしゃい。何を差し上げましょう?』サミュエルが声をかけた。『とりあえずエールをグーッと、どうです?』
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『エールを飲むと警戒心が鈍る。正統な騎士の飲み物は水と決まっている』男は横柄に答えた。
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『あんな気取った野郎は、これまで会ったことがない』ラルはくすくす笑いながら小声でレッジに言った。鎧の男は、その会話が聞こえたかのように、キッと2人を睨み付けた。彼らは咳払いをして笑いをごまかした。
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『強い騎士様、お助けください!でっかいアリがオレを食おうとしているんですよ!木からぶら下がった2匹のオークをあいつらが食おうとしてるのを見たんでさぁ!あいつら、何でも食っちまう!お助けくださったら、一生恩に着ますです!』ミギーは喉から丸太を半分に引き裂くような音を立てたかと思うと、若き戦士の鎧にて唾を吐きつけた。彼はすぐさま、ぼろぼろのシャツの袖で鎧についた唾を拭い去ろうとしたが、しっかりと染みが残ってしまった。
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男は、胸当てプレートにできた染みを気にする素振りを見せまいと、店をぐるりと見回して言った。『このお方を苦しめている物の正体を見極めに、拙者と共に出かける勇気のある者は、ここに何人おるか?』
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耳を圧迫するような沈黙が流れ、次の瞬間、爆発音のような笑い声が店を満たした。
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『ちょ、ちょっと待った。真に受けちゃダメだ。巨大なアリだって?平凡すぎるぜ、まったく』ラルの顔は笑いをこらえ切れずに真っ赤になった。『ミギーのやつ、とうとうオリジナルのモンスターを考え出すようになったか。頭が良くなってるのか悪くなってるのか、わかんないよ』
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男の表情が不快そうに歪んだ。彼は両足を椅子に乗せ、最後の一口のエールを喉に流し込んでいるロジャーを見下ろすと、言った。『貴殿は、この町の警備兵であろう?命に代えてでもこのお方をお守りするのが、徳の道というものではないか。貴殿の武勇はいずこにある?』
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『オレだって勇気ぐらいある!』ロジャーはほろ酔いに緩んだ顔で言った。『サミュエルのエールが飲めるんだからな』常連客たちの笑い声がさらに高まった。
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『貴殿は、魔法使いであろう……』男は語気を荒げた。『このような気の毒な方に、慈悲の心を示されてはいかがか!』かいがいしく彼の鎧を磨こうとして返って汚しているミギーの行為を丁寧に拒みながら、男は訴えた。
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『慈悲の心は3杯前に使い果たしちまったよ』レッジは空になったマグカップを逆さにしてカウンターに置いた。『サム、こちらのお方に、お別れのグラスを1杯を頼むよ』
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サミュエルは新しいエールのカップをレッジに、水の入ったグラスを男に渡した。『悪気はないんですよ。ミギーはここいらじゃ有名な……その……空想家でして。ヤツの巨大なアリが負いかけてきたってのは、差し詰め、転んでアリ塚に顔から突っ込んで、アリンコをうんと間近に見たってな程度のことなんですよ』
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若い騎士は、その店に漂う嫌な雰囲気を感じた。『このお方の言葉を、誰一人として信じようとしないのか?』
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もし、人を小馬鹿にした目くばせが音を立てたとしたら、店の中はオークの爆弾を火にくべたような大騒音がまき起こっていたに違いない。
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『この臆病者どもが何もせぬと言うのなら、この拙者が巨大アリを退治して差し上げよう!さあ、共に参られよ。あなたが見られた怪物の巣へ拙者を……、あの、鎧に触らないでいただけるかな。いざ』マギーは、相変わらず男のまわりをぴょんぴょん跳びはね、またあの話を最初から、まるで初めてするかのようにペラペラとまくしたてながら、男と店を出ていった。
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次の夜、パブは輝く鎧の男の噂で持ちきりだった。レッジとラルとロジャーは、あの騎士と名乗る男が夜通しアリンコを探して歩き回る姿を想像し合っては、何時間も笑い転げていた。しかし、そんな馬鹿騒ぎも、店のドアが開き、そこにミギーが黙って立っているのを見たときにピタリと止んでしまった。
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ミギーは、バルロンの集団暴走に踏みつけにされたような顔をしていた。彼の髪の毛や衣服には、血の塊がこびりついている。彼は木の切り株のように押し黙っていた。細かいところまでは見えなかったが、体中に、いくつもの巨大なアリの頭がぶら下がっていた。鋭い顎で彼の体にしがみつくその頭は、死してなおこの男を食おうとしているかのような迫力があった。ひとつの頭は彼の首に噛り付いていた。別の頭は右腕に噛り付き、さらにもうひとつは足首に噛り付いていた。風変わりな宝石を身に着けているようにも見える。彼の右手には、傷だらけになった昨日のあの若い騎士の胸当てプレートが握られていた。
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彼は足を引きずりながら、ゆっくりとバーに近づき、さりげなくカウンターにもたれかかった。そのときの足音は、エコーがかかったように店の中に響き渡った。『エールをもらえるかい?』彼は静かに言った。サミュエルは黙ってうなづき、エールを注いだカップを彼の前まで滑らせた。ミギーはエールが飲めるように、手首に噛み付いていた巨大アリの頭をさりげなく取り去り、カウンターの上に置いた。彼は乱暴にカップをカウンターに置くと、輝く鎧を頭上に掲げ、そしてサミュエルの前に投げつけた。『代金はこれでいいか?』
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サミュエルはうなづいた。
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ミギーは微笑むと、カウンターに置いたアリの頭を取り、脇に抱えた。そして、また足を引きずりながら店を出るときに、彼はラルとレッジのほうを見た。『な、でっかいアリだろ?』2人は、まったく言葉を出せないまま、うなづいた。ミギーは戸口で立ち止まり、ゆっくりと振り返って店の中の連中を見回した。
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『忘れるところだった。あのゴーレムだが、いまいちだったな』
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そう言い残すと、ミギーは夜の街に消えていった。
  
 
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Latest revision as of 09:51, 31 May 2017


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Global Edition


Crazy Miggie / クレージー・ミギー

Author: Unknown author Published: September 12, 2002



The Keg and Anchor in Trinsic was usually a calm place, where a weary traveler could stop in for cool ale and a hearty meal. The barkeeps always tried to keep the atmosphere relaxed and pleasant, with a good joke or an entertaining story. Most well-traveled adventurers knew they could find a night away from the rigors of battle and turmoil in a game of chess and a well-played round of dice-tossing in the warm setting of the pub.

Only one problem that occasionally broke the calm and that was Crazy Miggie. None of the Keg and Anchor regulars knew where Miggie came from, or what exactly had made him crazy in the first place. Truth be told, they found it hard to care after putting a few pints in their bellies. Miggie, like most famous beggars, was paranoid. He was convinced that every threat that had ever fallen Britannia was there to claim him for evil purposes too horrible to repeat.

Miggie fit the description of “crazy beggar” as if he had carefully researched it with a team of librarians and taken a “What do you consider to be an insane beggar?” poll across Britannia. His wild gray hair sloppily shot out in all directions, as if he has just had lightning bolt cast on him; his clothes stank as if he had washed them in a dead plague beast. His face was a maze of wrinkles with one eye that was nearly wrinkled shut. To say the least, Miggie was not a pleasant looking man. People avoided him whenever they could. Mongbats avoided him whenever they could.

Nevertheless, Miggie was familiar to those who frequented the Keg and Anchor and his heated ramblings had become more of an amusement than an annoyance, mainly out of necessity to those trying to enjoy themselves. Time and time again he ran into the pub screaming of danger when none was to be found. Miggie had a tendency to become very alarmed very late.

After Minax had laid siege to the entire city of Trinsic, things gradually returned to normal. The Keg and Anchor was no different. A fair number of patrons had returned on the pub’s reopening for an evening of drunken entertainment. Rodger the guard relaxed in his usual chair taking long gulps of ale in-between boisterous guffaws. Ledge the mage and his portly warrior companion Rul sat near Samuel the barkeep trading stories and taking turns buying rounds of drinks. They needed to relax after seeing the city overrun with undead and relaxing was something they could do professionally if there was money to be made in it. These men were so good at relaxing that they hardly batted an eyelash when Crazy Miggie burst in the door like some sort of Insanity Elemental.

“MINAX! She’s here! Run for your LIVES! She’s come to take over the entire city with her dead man friend! Do I smell bread? I swear I smell fresh brea…. SHE’LL KILL US ALL!!” Miggie grabbed Rodger by his tunic and tried to shake the man, but the burly guard was so strong that Miggie just seemed to flail about wildly.

Rodger nearly spit out his ale. “By the shrines, man! Minax was driven from the city two weeks ago! If you do not unhand me this instant I’m going to cut the stink off of you with my halberd!”

“That’s a good idea there, Rodger!” said Ledge from near the bar. “I’ve never seen a halberd of mongbat repelling, could be valuable!”

Rul laughed aloud and turned to Samuel the barkeep. “I think I’ll have to hold off on that next ale, Samuel. Clearly this Minax business needs to be taken care of. Take me to her, Miggie! I’ll tickle her out of town! She’s quite the looker.” He giggled.

“Why, Rul, what would your wife say if she could hear you?” asked Ledge.

“Wife? Wife! I knew I forgot something! Another ale, Samuel, I like what it does to me!” Rul and Ledge cackled loudly while Rodger did his best to shove Miggie away without touching him too much.

“I seen her! She’s outside right now! VIRTUES PROTECT ME; SHE’S GOING TO DESTROY US ALL!” Miggie screamed loudly and ripped part of his own shirt dramatically. The customers winced at his gravelly voice. The barkeep, Samuel, had heard enough.

“Alright then, Miggie, out we go. Let’s go see this horrible Minax. Goodness I’m glad you don’t drink. Here.” Samuel draped his dirty bar towel on Miggie’s shoulder and then clasped his hand on it to lead the beggar out of the bar. Practically using Miggie to push the door open, he led the man a few steps in front of the pub. He could hear chairs shifting as people inside gathered by the window to watch the fun. “Now where is she?”

“There! THERE! Oh Mistress Minax, spare me! Spare me, I beg of you! I’ll do anything you say, please don’t feed me to your dead man friend!” Samuel blinked as he looked into the streets. A grumpy old woman pouring her laundry water into the street stared back with a grimace on her face.

“Sorry there Mrs. Brinstein, just Miggie having a bit of fun with us. Give my regards to Mr. Brinstein.” The old woman let out a growl that would scare wolf pack leaders. “Go on, Miggie, stay out of the pub tonight, won’t you? And while we’re at it, stay out of my garbage.”

Samuel gave Miggie a little shove, leaving his bar rag on the man’s shoulder. Miggie looked up into the threatening eyes of Mrs. Brinstein. Throwing the rag at her and screaming for mercy he bounded into the night to the laughter of everyone inside the bar.


“Exodus! EVERYONE RUN FOR YOUR LIVES!! He’s sent his wicked metal men after me! They want to make me a metal man! His horrible, horrible gargoyles chased me for days!” Miggie collapsed into a jittering heap on the floor of the pub, covering his head with his arms. He shook as if someone had cast earthquake.

Samuel didn’t even look up from the mug he was polishing. “Defeated three weeks ago, Miggie.”

“No! NO! Big angry Bolems are after meeeee!” Miggie swatted violently at the air around him as if trying to spread his smell around the pub.

“Golems, Miggie, Golems.” Ledge said from his seat at the bar. “Exodus isn’t going to send anymore Golems after us, he doesn’t have any slaves left to make them.”

“Nice people those gargoyles!” Rul said before chugging the last of his beer. “Ledge and I saw their city, beautiful place. Not much to drink there though.”

Ledge quietly nudged Rul and gave Rodger a knowing look from across the room. “Say, Rodger, you’re the city guard here. Why don’t you… um… take Miggie outside and show him there’s nothing to be frightened of?”

“Because I still have some ale left in my glass and besides it’s Samu… Oh, Oh, yes I am a guard! I am a guard and it is certainly my duty to make sure this citizen is safe! Here we go, Miggie, I’ll show you that there’s nothing outside that’s after you.” Rodger poked the quivering beggar with the back end of his halberd and got him to his feet.

Ledge and Rul were nearly falling over each other trying to hold in their laughter. Rodger poked Miggie out the front door of the pub and within seconds a scream was heard that nearly shook the building. A stinky gray streak blurred past the two windows. Ledge and Rul were almost on the floor convulsing with laughter.

“Samuel, I owe Ledge an ale.” Rodger said grinning. “You were right. Building your own golem was useful.”


From outside, everyone could hear Miggie’s crazed rambling growing closer and closer until the door was opened by the shiniest set of armor, quite possibly, in the world. Inside the armor was a very young handsome warrior with a brightly colored sword and scabbard at his side. The man looked as if he had stepped out of a child’s bedtime story about heroes and dragons. Miggie bounced around the man, yipping like a small, excited dog.

“Ants! Giant ants the size of horses! HUGE, HUGE insects that could eat a man for supper! They were after me for their next meal I tell you!” Miggie almost seemed happy to have someone new to talk to. The more drunken of the Keg and Anchor patrons watched Miggies reflection bounce about on the man’s mirror-like armor.

“What can I get you today good sir?” Samuel asked the man. “Mug of ale for your pleasure this evening?”

“Ale would make me less alert. A simple drink of water is all any good knight requires.” The man said in a haughty voice.

“I think that’s the prettiest man I’ve ever seen.” Rul giggled quietly to Ledge. The armored warrior shot a look at the two of them as if he could hear what they were saying. They coughed their laughter away.

“I need saving good knight! The giant ants want to eat me! I seen ‘em try to eat two orcs stuck up in a tree! They’ll eat anything! I’d be eternally grateful to you my liege!” Miggie’s throat made a sound like logs being ripped in half and he spit on the young warrior’s armor. Using the ripped sleeve of his shirt he began to polish the spit into a nice smudge.

The warrior, trying to ignore the new stain on his breastplate, looked around the room. “Who shall be brave enough to accompany me to seek out that which threatens this good man?”

The silence in the room became deafening. The laughter that followed it was nearly explosive.

“Wait, wait… you believe Miggie? Giant ants?! That’s classic, that is!” Rul’s face was bright red with giggles. “Miggie’s finally making up his own monsters, I don’t know if he’s getting better or worse!”

The man’s face bent into a scowl. He looked down at Rodger who had his feet propped up and the last half of a mug of ale sliding into his throat. “You good sir, you are a city guard - are you not? Does virtue not bind you to protect this man with your life? Have you no valor?”

“Certainly I have valor!” Rodger said behind a half-drunken grin. “I drink Samuel’s ale don’t I?” More laughter boomed around the room.

“You, wise mage…” the warrior nearly spat the words out. “Have you no compassion for this poor wretch?” The warrior was trying to gently stop Miggie’s effort to soil his armor.

“I think I ran out of compassion about three pints ago.” Ledge flipped his mug upside down and set it on the bar. “Sam, one more glass of indifference for the road, please?”

Samuel handed a fresh mug to Ledge and brought a glass of water to the young warrior. “We mean no offense, sir. Miggie here is known for his… creative… stories. If he says he saw giant ants chances are he fell face first into an ant hill and saw some up close.”

The young warrior seemed disgusted with the entire room. “None of you have faith that this man speaks honestly?”

If people exchanging amused glances had a sound it would have been louder than an orc bomber being tossed on a fire in the pub.

“I shall slay these giant ants for you if these cowards will not! Come good sir, and lead me to this nest of fiends that you… stop touching my armor. Now.” Miggie followed the man out the door of the pub bouncing around and chattering again as if he had never told the story.


The next evening the man in shiny armor had become the talk of the pub. Ledge, Rul, and Rodger laughed for hours imagining the so-called knight stepping on ants all night. It wasn’t until the pub door opened and Miggie stood silently in the doorway that they were stunned into silence.

Miggie looked as if he had been run over by a stampede of balrons. Blood caked his hair and his clothes. He stood with a slight slump. These details were difficult to notice, however, due to the large ant heads clamped on to his body. The jaws of the heads clung onto him as if the ants were still biting him in death. One was locked around his neck, one around his right arm and one around his ankle. He looked as if he was wearing some sort of bizarre jewelry. In his left hand he carried the dented breastplate of the young warrior from the night before.

His footsteps seemed to echo in the room as he limped slowly up to the bar and leaned casually on it. “Ale, please?” he asked calmly. Samuel nodded silently and poured a drink and slid it down the bar into Miggie’s hand. Miggie casually pulled the giant ant head off of his wrist and set it on the bar so that he could guzzle the ale. He slammed the glass down on the bar and lifted the shiny armor, then dropped it with a clang in front of Samuel. “Will this cover the drink?”

Samuel nodded.

Miggie smiled and picked up the ant head from the bar and stuck it under his arm. As he shuffled out of the pub he looked at Rul and Ledge. “So… giant ants, eh?” The pair nodded, still to stunned to speak. Miggie stopped in the doorway and very slowly turned around to look at everyone.

“I almost forgot. That golem thing? Not funny.”

With that, he turned and walked into the night.




これは、シナリオ第1週の物語の、追加ストーリーです。

トリンシックのケグ&アンカー(The Keg and Anchor)は、旅人が気軽に立ち寄り、冷たいエールと健康的な食事で英気を養う、そんな落ち着いた店だった。従業員たちは、のんびり落ち着いた店の雰囲気を大切にしていた。彼らはよく、気の利いたジョークを飛ばし、面白い話を聞かせては客を楽しませてくれたものだ。この店は、激しく過酷な戦いの日常を忘れ、パブの暖かい雰囲気の中でチェスや人気のダイスゲームに興じることができる、格好の夜の隠れ家として、旅なれた一流の冒険家たちの間でも評判だった。

だが、そんな落ち着いた店の雰囲気をぶち壊す問題がひとつだけあった。クレージー・ミギー(Crazy Miggie)だ。ミギーがどこの馬の骨で、そもそも彼がなぜ"クレージー"になったかを知る者は、ケグ&アンカーの常連たちの中にもいなかった。と言うより、客たちにとれば、何杯か腹に流し込んでしまえば忘れてしまうような事柄だったのである。世間に名の知れた乞食がみなそうであるように、ミギーにも誇大妄想の気があった。彼は、このブリタニアに降りかかったすべての災厄は、恐ろしくて口に出せないほどの悪い連中が彼を狙って引き起こしたものだと信じて疑わない。

ミギーはまさに"頭のイカレた乞食"という形容がよく似合う人物だった。まるで彼自身が学者チームを雇い、さらにブリタニア全土で『頭のイカレた乞食に必要なものは何か』というアンケートを実施するなどして入念に調査を行ったのではないかと思わせるほど、ぴったりはまっていた。ぼさぼさの灰色の髪は、雷に撃たれた直後のようにあらゆる方向に逆立ち、衣服からは、伝染病で死んだ動物の肉で洗ったかのような異臭を放っていた。顔には迷路のように皺が走り、片方だけの目は皺によって半分閉じかかっていた。どう贔屓目に見ても、醜い男だった。人々は、極力彼を避けて歩いた。モンバットですら、できる限り彼には関わらないようにしていた。

にも関わらず、ミギーはケグ&アンカーの常連客のお馴染みであった。彼が興奮して店に飛び込んでくるのを、客たちは嫌がるどころか、むしろ楽しみにしていたほどだ。とくに、娯楽に飢え、どんな小さなことでも楽しもうとしている連中の間では格好の暇つぶしの対象だったのである。彼は、殺されそうな悲鳴をあげながら誰もいない店に走り込んでくることがよくあった。また、とても警戒心が強く、夜が相当に更けてから現れる傾向があった。

トリンシック全土に対するミナックス(Minax)の猛攻撃が去り、町は次第に日常を取り戻していった。ケグ&アンカーも例外ではなく、店を再開した日には、多くの常連客がほろ酔い気分の一晩を楽しもうと戻ってきた。警備兵のロジャー(Rodger)は、いつもの席でくつろぎ、けたたましく大笑いする合間にぐーっとエールを飲み干していた。魔法使いのレッジと相棒の戦士ラルはカウンターに陣取り、代わる代わる酒を注文しては、バーテンのサミュエルと話を聞かせ合っていた。町中がアンデッドに襲われた後でもあり、彼らにはくつろぐ必要があった。彼らは、くつろぐことにかけてはプロだった。もしこれが商売だったなら、彼らはかなり稼いでいたことだろう。そんな、誰よりもくつろいでいた彼らだけに、クレイジー・ミギーがまるで狂気の化身であるかのようにドアから飛び込んできたときには、いささか驚いた。

『ミナックスだぁ!あいつが出た!みんな逃げろ!この町を乗っ取りに、死んだ亭主といっしょに攻めてきたんだ。パンの匂いだ!焼きたてのパンの……、みんな殺されるぞ!』ミギーはロジャーのチュニックを掴んで体を揺さぶろうとしたが、衛兵の巨体はびくともせず、反対にミギーだけがバタバタと暴れているように見えた。

ロジャーはエールを吐き出しそうになって言った。『頼むよ、おっさん!ミナックスは2週間前に追い払ったよ。今すぐその臭い手を離さないと、オレのハルバードで切り落としてやるぞ!』

『そりゃあいい、ロジャー!』バーのあたりからレッジ(Ledge)が茶々を入れた。『そのハルバードが、モンバットを追い払う以外に役に立つところを見てみたいもんだ!』

ラル(Rul)が大声で笑いながらバーテンのサミュエル(Samuel)を振り返った。『お代わりはちょっとお預けだ。このミナックス事件を放ってはおけないからな。ミギー、そこへ案内してくれ!オレが彼女をこちょこちょして町から追い払ってやる。いい女だからな』彼はそう言うと、くすくすと笑った。

『ラル、お前のカミさんが今のを聞いたら、何ていうかな?』レッジが言った。

『女房だと?女房め!そうか、なんか忘れてると思ったよ。サミュエル、やっぱりお代わりだ。オレにはこっちのほうがいい』ラルとレッジは笑い転げた。その間、ロジャーは、なるべくミギーに触れないようにして彼を追い払うことに苦労していた。

『見たんだよ!すぐ外に立ってるんだ!ああ、徳のご加護がありますように。みんな殺されてしまうー!』ミギーは大声で叫ぶと、芝居がかった様子で自分で自分のシャツを引き裂いた。店の客たちはミギーの聞き苦しい声に顔をしかめたが、バーテンのサミュエルは、とっくに馴れっ子だった。

『わかったよ、ミギー。外で聞こう。恐ろしいミナックスを見に行こうじゃないか。あんたが下戸で助かったよ。ほら』サミュエルは汚れたナプキンをミギーの肩にかけ、その上から手を置いて、ミギーを店の出口へと誘導した。そして、ミギーの体でドアを押し開けさせ、店から数歩離れた場所まで連れ出した。店の中からは、一斉に椅子を引く音が聞こえてきた。彼らは窓のところに固まり、興味深げに事の成り行きを見学していた。『それで、どこにいる?』

『あれだ!ほら!おお、ミナックス様。お助けください!命だけはご勘弁を!何でも言うことは聞きます。あなたの死んだご亭主の餌にしないでください!』サミュエルは通りを見渡して、目を瞬かせた。そこでは、洗濯の水を通りに捨てた仏頂面の老婦人が、こちらを睨み返していた。

『すいません、ブリンスタイン(Brinstein)さん。ミギーがふざけてるんですよ。ご主人によろしくお伝えください』ブリンスタイン婦人は恐ろしいうなり声をあげた。その声には、オオカミの群のリーダーをも震え上がらせるほどの凄味があった。『さあ、ミギー。今夜はもう店には来ないでくれよ。それから、営業時間中に生ゴミを漁るのもナシだ』

サミュエルは、ナプキンを乗せたままのミギーの肩を軽く押し出した。ミギーは恐ろしいブリステイン婦人の目を見つめた。そして、ナプキンを彼女に投げつけると、命乞いを叫びながら夜の闇の中に転げ込むようにして消えていった。店の中からは大きな笑い声が響いてきた。

  • * *

『エクソダス(Exodus)だぁー!殺されるぞ、逃げろー!エクソダスの手下の金属人間が追いかけてきた!オレを金属人間に改造しようとしてるんだ!怖い怖いガーゴイルが一日中オレにつきまとってるんだよー!』ミギーはパブに転がり込むと床に伏せて、ガタガタと体を震わせながら両手で頭を覆った。まるで地震の魔法に襲われた人のようだった。

サミュエルは、マグカップを磨く手元から目も離さずに言った。『それなら3週間前にやっつけたじゃないか、ミギー』

『いや、違う!でっかいボーレム(Bolem)が怒って追いかけてきたんだ!』ミギーは、自分の体の臭いを周囲に撒き散らそうとでもするかのように、両手をばたばたさせて反論した。

『ゴーレム(Golem)だ、ミギー。ゴーレムだよ』バーの椅子に腰掛けたレッジが口を挟んだ。『エクソダスはもうゴーレムを送り込んだりはしないよ。ヤツにはもう、ゴーレムを作らせる奴隷が一人もいないんだからな』

『ガーゴイルは悪い連中じゃないぜ!』とラルは付け加え、ビールの最後の一口をすった。『オレはレッジとガーゴイルの都に行ったことがあるが、きれいなところだった。そこで飲んだくれようって気にはなれなかったがな』

レッジは黙ってラルに同調してうなづき、何かを目で訴えながら部屋の反対側にいるロジャーに向かって言った。『なあ、ロジャー。お前も町の警備兵なんだろ。ぼんやりしてないで、ほら……ミギーを店の外に連れていって、何も怖がることはないって安心させてやったらどうなんだ?』

『まだオレはビールを飲んでるんだ。それに、そういうことはサミュエルの……あ、ああ、そうか!オレは警備兵だもんな。市民の安全を守るのがオレの義務なんだったよな。行こう、ミギー。誰もあんたを追いかけてなんかいないってことを、オレが証明してやるよ』ロジャーは震えるミギーをハルバードの柄で突付き、彼を立たせた。

レッジとラルはほとんどひっくり返りそうになりながらも、必死に笑いをこらえていた。ロジャーはミギーを突付きながら店の入り口の外まで追い出すと、間もなく建物全体を揺るがすような大きな悲鳴が聞こえた。そして、異臭を放つ灰色の髪の毛が2つの窓の前を猛スピードで通過していった。レッジとラルは、笑いをこらえ切れずに椅子から転げ落ちんばかりに身もだえした。

『サミュエル、オレからレッジに1杯やってくれ』ロジャーはニヤニヤ笑いながら言った。『お前の勝ちだよ。お前のゴーレムの術がかなり利いたようだ』

  • * *

遠くから響いてくる常軌を逸したミギーの叫び声は、店の中にまで聞こえてきた。その声は次第に近づき、店の戸口で止まった。ちょうど、見たこともないほどピカピカに磨き上げられた鎧の手が店のドアを開けたところだった。鎧の主は、若くてハンサムな戦士だった。腰に眩いばかりに色づけされた剣と鞘を下げている。まるで英雄とドラゴンが登場する子供のおとぎ話から抜け出たような、英雄然とした男だ。ミギーは、興奮した子犬のように、彼の周りをぴょんぴょんと飛び跳ねた。

『アリだよ!家ぐらいあるでっかいアリの大群だぁ!すんごくでっかくて、人間なんかペロっと食っちまう!そいつらが、オレを食おうと追いかけてきたんだよー!』ミギーは、話を聞いてくれる新しい人間が現れたことに狂喜していた。すでに酒の回っているケグ&アンカーの常連たちは、鏡面仕上げの鎧に映り込んだ飛び跳ねるミギーの姿をぼんやりと眺めていた。

『いらっしゃい。何を差し上げましょう?』サミュエルが声をかけた。『とりあえずエールをグーッと、どうです?』

『エールを飲むと警戒心が鈍る。正統な騎士の飲み物は水と決まっている』男は横柄に答えた。

『あんな気取った野郎は、これまで会ったことがない』ラルはくすくす笑いながら小声でレッジに言った。鎧の男は、その会話が聞こえたかのように、キッと2人を睨み付けた。彼らは咳払いをして笑いをごまかした。

『強い騎士様、お助けください!でっかいアリがオレを食おうとしているんですよ!木からぶら下がった2匹のオークをあいつらが食おうとしてるのを見たんでさぁ!あいつら、何でも食っちまう!お助けくださったら、一生恩に着ますです!』ミギーは喉から丸太を半分に引き裂くような音を立てたかと思うと、若き戦士の鎧にて唾を吐きつけた。彼はすぐさま、ぼろぼろのシャツの袖で鎧についた唾を拭い去ろうとしたが、しっかりと染みが残ってしまった。

男は、胸当てプレートにできた染みを気にする素振りを見せまいと、店をぐるりと見回して言った。『このお方を苦しめている物の正体を見極めに、拙者と共に出かける勇気のある者は、ここに何人おるか?』

耳を圧迫するような沈黙が流れ、次の瞬間、爆発音のような笑い声が店を満たした。

『ちょ、ちょっと待った。真に受けちゃダメだ。巨大なアリだって?平凡すぎるぜ、まったく』ラルの顔は笑いをこらえ切れずに真っ赤になった。『ミギーのやつ、とうとうオリジナルのモンスターを考え出すようになったか。頭が良くなってるのか悪くなってるのか、わかんないよ』

男の表情が不快そうに歪んだ。彼は両足を椅子に乗せ、最後の一口のエールを喉に流し込んでいるロジャーを見下ろすと、言った。『貴殿は、この町の警備兵であろう?命に代えてでもこのお方をお守りするのが、徳の道というものではないか。貴殿の武勇はいずこにある?』

『オレだって勇気ぐらいある!』ロジャーはほろ酔いに緩んだ顔で言った。『サミュエルのエールが飲めるんだからな』常連客たちの笑い声がさらに高まった。

『貴殿は、魔法使いであろう……』男は語気を荒げた。『このような気の毒な方に、慈悲の心を示されてはいかがか!』かいがいしく彼の鎧を磨こうとして返って汚しているミギーの行為を丁寧に拒みながら、男は訴えた。

『慈悲の心は3杯前に使い果たしちまったよ』レッジは空になったマグカップを逆さにしてカウンターに置いた。『サム、こちらのお方に、お別れのグラスを1杯を頼むよ』

サミュエルは新しいエールのカップをレッジに、水の入ったグラスを男に渡した。『悪気はないんですよ。ミギーはここいらじゃ有名な……その……空想家でして。ヤツの巨大なアリが負いかけてきたってのは、差し詰め、転んでアリ塚に顔から突っ込んで、アリンコをうんと間近に見たってな程度のことなんですよ』

若い騎士は、その店に漂う嫌な雰囲気を感じた。『このお方の言葉を、誰一人として信じようとしないのか?』

もし、人を小馬鹿にした目くばせが音を立てたとしたら、店の中はオークの爆弾を火にくべたような大騒音がまき起こっていたに違いない。

『この臆病者どもが何もせぬと言うのなら、この拙者が巨大アリを退治して差し上げよう!さあ、共に参られよ。あなたが見られた怪物の巣へ拙者を……、あの、鎧に触らないでいただけるかな。いざ』マギーは、相変わらず男のまわりをぴょんぴょん跳びはね、またあの話を最初から、まるで初めてするかのようにペラペラとまくしたてながら、男と店を出ていった。

  • * *

次の夜、パブは輝く鎧の男の噂で持ちきりだった。レッジとラルとロジャーは、あの騎士と名乗る男が夜通しアリンコを探して歩き回る姿を想像し合っては、何時間も笑い転げていた。しかし、そんな馬鹿騒ぎも、店のドアが開き、そこにミギーが黙って立っているのを見たときにピタリと止んでしまった。

ミギーは、バルロンの集団暴走に踏みつけにされたような顔をしていた。彼の髪の毛や衣服には、血の塊がこびりついている。彼は木の切り株のように押し黙っていた。細かいところまでは見えなかったが、体中に、いくつもの巨大なアリの頭がぶら下がっていた。鋭い顎で彼の体にしがみつくその頭は、死してなおこの男を食おうとしているかのような迫力があった。ひとつの頭は彼の首に噛り付いていた。別の頭は右腕に噛り付き、さらにもうひとつは足首に噛り付いていた。風変わりな宝石を身に着けているようにも見える。彼の右手には、傷だらけになった昨日のあの若い騎士の胸当てプレートが握られていた。

彼は足を引きずりながら、ゆっくりとバーに近づき、さりげなくカウンターにもたれかかった。そのときの足音は、エコーがかかったように店の中に響き渡った。『エールをもらえるかい?』彼は静かに言った。サミュエルは黙ってうなづき、エールを注いだカップを彼の前まで滑らせた。ミギーはエールが飲めるように、手首に噛み付いていた巨大アリの頭をさりげなく取り去り、カウンターの上に置いた。彼は乱暴にカップをカウンターに置くと、輝く鎧を頭上に掲げ、そしてサミュエルの前に投げつけた。『代金はこれでいいか?』

サミュエルはうなづいた。

ミギーは微笑むと、カウンターに置いたアリの頭を取り、脇に抱えた。そして、また足を引きずりながら店を出るときに、彼はラルとレッジのほうを見た。『な、でっかいアリだろ?』2人は、まったく言葉を出せないまま、うなづいた。ミギーは戸口で立ち止まり、ゆっくりと振り返って店の中の連中を見回した。

『忘れるところだった。あのゴーレムだが、いまいちだったな』

そう言い残すと、ミギーは夜の街に消えていった。