Difference between revisions of "UO:2002-01-25: The Watcher"

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One by one, the tombs opened and an entire race awoke from their sleep.
 
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ダーシャ(Dasha)は身を起こそうとしたが、刺すような痛みに手足が震えて動けなかった。彼女に覆いかかる影はゆっくりと近づいて来た。彼女は、バランスを保てるかどうかもあやしかったが、今一度身体を立て直そうともがいた。そして素早くもう一度ヒールの呪文をかけようと試みた。
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呪文の影響でダーシャの頭の中は渦を巻き視界がぼやけたが、乱れる意識の中で、かすかな光が彼女の手の先から広がり身体全体を覆うのが見えた。その効果はわずかなものだったが、力の波動が手足に行き届くのを感じた。地面を押しやるようにして震える足でようやく立ち上がると、影の人物は手を伸ばせば届く距離まで近づいて来た。
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『思い通りにはさせません…あなたは殆ど破壊してしまったのです…。』ダーシャは切れ切れの息でそう言うと膝を折った。『なりません…そうさせる訳には…。』彼女の視界は舞い踊る光の球で満たされ、身体の力が朝日の中の霧のように消え失せるのを感じた。彼女が最後に見たものはアドラナス(Adranath)の顔だった。彼の頬には涙の筋が光っていた。
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『もう待つのは終わりじゃ。』彼はそういうとダーシャを子供のように抱き抱えた。彼の涙は勢いを増し、すすり泣きにと変わった。『お前は我等の元に帰って来たのじゃ。長いことかかったが、ついに帰って来たのじゃ!』
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炎のきらめきが、ダーシャの閉じたまぶたの裏にオレンジ色の花を咲かせた。彼女は顔をしかめると、こめかみを押さえ、ゆっくりと目を開いた。小さなたき火の向こう側にはアドラナスが、優しく微笑みながら座っていた。彼女はすばやく起き上がると身をこわばらせた。
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『あなたは何をしたのですか?ここはどこですか?』彼女は迫った。彼女の彼に対する永遠の尊敬の念は、彼が指揮して招いた混沌の様を目の当たりにした時から消えてしまっていた。戦で彼の呪文がイルシェナーの大地を揺るがせていく様は、彼女の悪夢として一生残るであろう。
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『心配しておったぞ、娘よ。お前の体力が元に戻るまで何日もかかった。』アドラナスは彼女の問いが耳に入らないかのように言った。『これで我々は完璧に戻れた。すぐにも我々の為すべき事を為さねばならぬ。それはもう長い事待たされたからな。』彼は微笑んで彼女を見つめた。
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ダーシャは彼の言葉を飲み込もうと、しばらく沈黙していた。このエターナル(eternal)は気が狂ってしまったのか、それとも彼女を操ろうとしているのか定かではなかった。『アドラナスよ、何をしたのかお教え下さい!あなたの狂気が私達に何をもたらしたと思うのです?ここはどこなのですか?』彼女は言いたい事が伝わったかどうか、彼の瞳を探ったが、その目は夢を見ているかのように虚ろだった。
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『山じゃよ、ダーシャ。山の姿に気づかぬか?今となっては、そう様変わりしてはおらんじゃろう?』彼は立ち上がり、雄大な地形を見渡した。『今となっては…』
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『このような場所は一度も見た事はございません。』ダーシャはゆっくりと言った。自分の言葉に自信が持てなかったのだ。この場所には、確かに見覚えはある。『この場所は…私の故郷を思い出させます。しかし、これは私達の世界の贋物か何かでしょう。安っぽい模造品です!』彼女も立ち上がり、アドラナスの前に立った。彼女が彼の肩を強く掴むと、お互いの視線がぶつかった。『ここで何が起こったのか教えて下さい!私達の故郷はどこに行ったのですか?一体どうやってジュカ(Juka)を…』
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『ジュカ!』彼は目を見開き彼女の手を握った。『その時が来たのじゃ、ダーシャ。長い間見張っておったが、ついに再びその時が来たのじゃ。我々の均衡を回復する機会が新たに始まったのじゃ!』
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『均衡ですか?』彼の言葉に、彼女の心はわずかに和らいだ。『たった数日前、あなたはすっかり復讐の虜になっていたというのに、今さら均衡に希望を見いだしたというのですか?』
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『数日じゃと?』彼は困惑し、顔をしかめた。『何世紀も前の事じゃ…お前は知らん!娘よ…お前は知らぬはずだ…もう数え切れぬほど昔の事じゃ。あの大破壊は…座りなさい。いいから座るんじゃ。』彼は彼女の手を取り、たき火の向こう側へと導いた。『知っておくべき事がある。』
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彼女はゆっくりと腰を降ろすと足を楽にした。師の態度に彼女は強い関心を覚えた。『知っておくべき事とは何ですか?』
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『お前は行方がわからなくなっていたのじゃよ、ダーシャ。お前は時空間から消えていたのだ。お前とジュカの砦は、そっくりあっと言う間に消えてしまったのじゃ。歴史から引き剥がされてしまったのじゃよ。エクソダス(Exodus)の仕業じゃ!』
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『しかし、私は砦からあなたの姿を見ました…あなたが呪文をかけると、全てが光に飲み込まれてしまったのです。』彼女の周囲に蒸散していた狂気の中からその出来事をそっくりたぐり寄せる為に彼女の記憶は張り詰めた。
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エクソダス!魔術師め、姿を見せろ!
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アドラナスの説明の異常さに彼女はぞっとする思いを抱き始めた。ここは故郷。時を経て山は丸みを帯び、地形も変化はしてきている。数日前魔法の炎と爆風が吹き荒れた場所には、見た事もない植物がはびこっている。でも…それはもっと前の事だったのであろうか?
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『いったいどのくらいの間?』ダーシャは腕組みをした。身体の中に寒気が走るのを感じた。彼女の世界は、もはや失われてしまっていた。かつて彼女の仲間によって使われていた魔法は色褪せ姿を変えていた。彼女の呪文の力が弱くなっているのももっともな話だった。彼女の家は、今や望むべくもなく歴史に埋もれてしまっていた。『一体私はどれくらいの間行方知れずになっていたのですか?』
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『何千年もの間じゃよ…とてつもなく…とてつもなく長い間じゃ。』彼は彼女を待っていた間の一瞬一瞬を思い出すかのように宙を見つめた。『とてつもなく長い間、わしは見張っておった…そしてついにその時が来たのじゃ。』
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『あなたは…そんなに長い間待てる訳がありません!一体どうやって?!』
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『エターナルの持って生まれた性質を忘れたのか?娘よ。』アドラナスは優しく微笑んだ。『わしはその見張り番(watcher)になったのだ。責任はわしにある。わしは…わしは自分のした事の償いをせねばならぬ…。彼の微笑みは不安な表情に変った。『あのような狂気…わしは全く愚か者よのう、ダーシャ。』
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『お願いです…アドラナスよ…。』ダーシャは彼の肩を優しく抱いて優しい声で言った。『ミーア(Meer)はどこへ行ったのですか?私達の種族は自らが忘れられる事など許さないはずです。私が…さらわれた後、何が起ったのですか?』
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『夢の到来じゃ。』涙が一粒彼の瞳からこぼれ出た。『私が引き起こしたあの大破壊…全ては失われてしまったのじゃ。ジュカ、砦、ミーア…わしらは自らの終わりを夢見て、しかしそこから疎外されてしまったのじゃ。その夢の中で私は…わしは皆を殺してしまった。全員、わしの病んだ復讐心のせいで死んでしまったのじゃ!』彼は気を取り直し、その大虐殺がすでにわずかな記憶に取って代わった事を思い出した。『その時じゃ、わし等が知ったのは。それはエクソダスのした事だと。ジュカは均衡を崩す為にさらわれて行った。お前も…さらわれて行ったのじゃ。』
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ダーシャは、再びその老人にかける言葉を失ってしまった。何千年もの間、夢の中で二つの種族の虐殺を目撃し続ける事の苦痛は、罰としては充分ではないか。彼はエクソダスのもくろみによって、自らの罪により疎外されてしまったかの様だ。『しかし、ミーア…私達の種族はどうなってしまったのですか?アドラナスよ。私達二人がミーアの生き残りなのですか?』
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『時は来たり!』彼はすっくと立ち上がり再び微笑んだ。『来い、来るのじゃ娘よ!お前は我等の元に帰って来た、そして今や覚醒の時はすぐそこまで来ているのじゃ。』
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彼はダーシャの手を取り、彼女が身を起こすのを手伝うと、きびきびした足取りで歩き始めた。見知らぬ土地で彼女が従うべき者は他になく、行く手に何が待ち構えているのかわからぬまま、彼女は彼の後を追った。二人は沈黙したまま一時間近く歩き続け、ついに山のふもとに辿りついた。草むらの中に小さな空き地ができていた。以前彼女が命からがら逃げ出したジュカの砦の場所からさほど離れていない場所であった。
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アドラナスが手で複雑な曲線を描くと、細かい光の塵が埃のように彼からこぼれ出した。彼が手をパンと叩くと光は地面に落ち、揃って渦を巻き、一つの明るい点を形作った。光は地表に沿って広がり、四角い石の壇を形作って消えた。丁寧に彫り出された石の頂上には、磨かれた木製の壇と光り輝くルーンの様な物が埋めこまれていた。
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『来るのじゃ。』アドラナスがダーシャに手を差し伸べると、彼女は疑わしそうにその手を取った。二人が揃って木製の壇の上に登るとその姿は消えた。彼等が再び姿を現した時、ダーシャは自分達が地下室の様な所にいるのがわかった。巨大な部屋の端から端まで、墓が整然と並んでいた。松明の灯がそこかしこに点々と燃えている。この場所を作ったのがミーアである事は確かだったが、彼女は一度もここへ来た事はなかった。
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『この場所は何なのですか?死人の墓ではないですね、アドラナス。』
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『違う。我々が従う道はこれしかなかったのじゃ。ここではミーア族が永遠の眠りに抱かれておるのじゃ。』彼は、蓋が閉じていない墓に向かって部屋の中を歩み続けた。『しかし、誰かが残らなければならなかった。ジュカを見張る誰かが。』彼は彼女の方に向き直った。『その役目はわしのものだったのだ。自分のしでかした事のせいで…私がかつてしでかした事と、まだ出来ていない事の為に…償いをせねばならなかったのじゃ。』
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『あなたは…何千年もの間見張り、そして待っていたというのですか?!』彼女は、ついにその年老いたエターナルが狂気に蝕まれたのだと思った。何世紀もの間この地で隠遁生活を送ったせいで、いくらかネジが緩んで来ているのだと。エターナルは永遠に生き長らえる事ができるだろう。しかし、孤独な暮らしを続けていたらいかに不死身の魂とて広大な時の流れに苦しむであろう。 『ミーアは住む場所を放棄したのだ。そうすれば我々は均衡への戦いが復活するまで待つ事が出来る。砦は帰還した。ジュカは戻って来たのだ。そしてお前、お前も戻って来た。』彼は、何世紀もの間彼を待ち続けていた幾百もの墓を囲む正円の中に入って行った。彼の任務は遂行された。『さぁ、目ざめよ我が民!起き上がり戦い続けるのじゃ!』
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彼は杖を床に叩きつけると片手を高く挙げた。彼の指先から放たれた眩しく青い光が部屋の隅々まで輝きで満たした。ダーシャは少し目を蓋いながら、光が全ての表面を包んで消えて行く様を見届けた。最初は気づかない程であったが、ゆっくりゆっくりと何かが動く音が聞こえて来た。彼女の傍らで、一つの墓石がひび割れて口を開け液体が流れ出て来た。また別のエターナルが石棺から起き上がり彼女と視線が合った。
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『ダーシャ!お前さんが我々の元に戻って来たという光景に、目覚めた途端に出会えるとは思いもせんかった!』ダーシャはただ、驚きの余り見つめるだけだった。何世紀もの間、種族の全員がここに眠っていた。再び均衡の為に身を捧げる事ができるように。皆、姿を消したのではなかったのだ。
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『見張り番、良くやったぞ。』そのエターナルはアドラナスに言った。『お前の献身が我々全員を救ったのだ。恩に着るぞ。』
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アドラナスはダーシャに向き直った。怯えた子供のような表情だった。『わしは…許されたのかの?ダーシャ。わしがしでかした事の全て、わしがしでかすかもしれなかった…起こった事の全て...わし一人が責めを負えば良いのじゃ。あの頃、わしはなんと言うせっかちな愚か者だったのだろう。このような新しい世界に来なくても良かったろうに。全てが終った今…わしは放免されたのじゃろうか?』
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彼女は微笑み、優しく彼の手を取った。『以前あなたは教えてくれました。智慧は変化の必然性を受け入れる、と。』
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一つまた一つと墓が開き、やがて種族全体が眠りから覚めた。
  
 
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Latest revision as of 09:31, 31 May 2017


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Global Edition


The Watcher / 見張り番

Author: Unknown author Published: January 25, 2002



Note: This is part of an overall story titled 'A Tale of Revenge' which was written to introduce the Lord Blackthorn's Revenge expansion.

A Tale of Revenge
Chapter 1: Beginnings
Chapter 2: The Challenge
Chapter 3: Clash in the Darkness
Chapter 4: The Beast
Chapter 5: Revenge
Chapter 6: Inferno
Chapter 7: Change
Chapter 8: The Watcher

“You!”

Dasha tried to rise but her trembling limbs pierced her with pain. The shadow of the figure cast down over her as it approached slowly. She scrambled on the ground to get herself upright again although she wasn't sure if she had a chance of even keeping her balance. She quickly attempted to cast another healing spell on herself.

Her head spun and her vision blurred from the effort but through the confusion she could see a faint light spread out from her hand and wash over her body. The effect was nearly unnoticeable but a small pulse of strength worked its way through her legs and arms. Pushing away from the ground she managed to spring up to a shaky standing position just as the figure grew close and stopped only an arms length away.

“I won't let you... you almost destroyed..." she said between short breaths, her knees buckling. As she fell forward two gray hands caught her shoulders. "No... I won't allow...” Her vision was filled with dancing points of light and she could feel the last of her strength vanishing like fog in the morning sunlight. The last thing she saw was the face of Adranath, tears streaming down his face.

“The wait has ended,” he said, holding Dasha close like a child. His tears flowed faster and he began to sob. "You have returned to us... at long last, you have finally returned to us!”


A twinkling of firelight made orange flowers bloom behind Dasha's closed eyes. She squinted and rubbed her temples and slowly cracked her eyes open. On the other side of the small campfire she could see Adranath sitting across from her, staring at her with a gentle smile. She sat upright quickly and tensed.

“What have you done? Where am I?!” She demanded. She was finished showing the eternal respect after the chaos she had witnessed transpire at his command. The image of his spells smashing through the landscape of Ilshenar during the battle would haunt her dreams for a lifetime.

“I worried for you, young one. It took days for your strength to return." Adranath said as if not hearing her. "We will be complete again. We must be on our way soon, the wait has been so long.” He smiled and stared at her.

Dasha sat silent for a moment, trying to make sense of his words. She wasn't sure if the eternal was insane or trying to manipulate her. “Tell me what you have done, Adranath! To what consequence has your madness condemned us? Where are we?” She tried to find some sign of understanding in his eyes but they seemed vacant, as if he were in a dream.

“The mountains, Dasha. Do you not recognize the mountains? Have they changed so much after all this time?" He stood and looked around the majestic landscape. "All this time...”

“I have never seen this place before." She spoke slowly, unsure of her own words. This place did look familiar. "This land... it reminds me of home. But this is some mockery of our world. A poor imitation!" She stood and walked to stand in front of him. Her hand held his shoulder tightly and his gaze met hers. "Tell me what has happened here! Where is our homeland? How did you bring the Juka...”

“The Juka!" His eyes widened and he grasped her hand. "The time has come, Dasha. I have been watching for so long and the time has come again. Our chance to restore the balance begins anew!”

“The balance?" Her heart softened slightly at his words. "Only days ago your thirst for vengence consumed you, now you again find hope for the balance?”

“Days?" His face wrinkled in confusion. "I have had... centuries... you do not know! My child... you do not know... gone for countless centuries. The destruction averted... sit, child. Sit." He took her hand and led her back to the fire. "You must be told.”

She slowly lowered to the ground and relaxed. The eternal’s behavior concerned her deeply. “What must I be told?”

“You have been lost, Dasha. You were taken from time. You and the entire Juka fortress, all taken in an instant. Pulled from history! It was Exodus!”

“But I saw you from the fortress... you were casting your spells and then everything was lost in light.” Her memory strained to recall the event fully from the madness that had transpired around her.

Exodus! Do something to give us time, sorcerer!

The insanity of Adranath's explanation suddenly began to make a cold sense to her. This was home. The mountains had dulled over time and the landscape had shifted. New, strange plant life flourished where fire and explosions of magic had been days before. But... it was more than days, wasn't it?

“How long?" Dasha crossed her arms and felt a chill in her body. Her world was now gone, the magics once controlled by her people had faded and changed. No wonder her spells felt weak. Her home was now hopelessly lost in history. "How long have I truly been away?”

“Thousands of years... so very... very long...” He stared into space as if reliving every moment of the wait. "For so long I have been watching... and now the time has come.”

“You have... you could not have been waiting for this long! How?!”

“You forget the very nature of an eternal, child?" Adranath smiled gently. "I became the watcher. The responsibility was mine. I... I had to atone for... what I had done...” His smile faded into dread. "Such madness... was I really so foolish, Dasha?”

“Please... Adranath...” She held him gently by the shoulders and spoke in soft tones, "where are the Meer? Surely our race did not allow oblivion to take us? What happened after I... after I was gone?”

“The dreams came." A tear rolled from his eye. "Such destruction I caused... everything was gone. The Juka, the fortress, the Meer... we dreamt of our end, yet... we were spared from it. In the dreams I... I killed everyone. Everyone dead because of my sickening vengenace!" He calmed himself, remembering the carnage had been reduced to a displaced memory. "That was when we knew. We knew what Exodus had done. The Juka, stolen away in time to keep the balance tilted! You... stolen away.”

She could not bring herself to raise her voice to the old one again; his pain at witnessing the slaughter of two races in his dreams for thousands of years was enough punishment. It seemed he had been spared from his own crime by Exodus' plot. “But the Meer... what became of our people, Adranath? Are we the last of our race?”

“The time has come!" He stood quickly and smiled once more. "Come, come child! You have returned to us and now the time of the awakening is at hand!”

He took her hand and helped her rise and immediately began walking away at a brisk pace. With nothing else to guide her actions in this strange place, she followed him, unsure of what awaited her. They walked in silence for nearly an hour until they reached the base of the mountains, a small clearing in the grass not far away from the Juka fortress she had barely escaped days earlier.

Adranath moved his hands in complicated arcs and small motes of light fell from him like dust. He clapped his hands together and the lights fell to the ground and swirled together forming one bright point. The light spread along the ground and formed the shape of a square stone platform before it faded. A platform of polished wood with what seemed to be blink runes was fitted into the top of the neatly carved rock.

“Come.” Adranath offered Dasha his hand, which she suspiciously took. Together they stepped onto the wooden platform and vanished. When they reappeared Dasha could see that they were in some sort of crypt. Tombs in rows stretched on from one end of the massive chamber to the other with small dots of torchlight burning throughout. It was obvious Meer had built this place, but she had never seen it before.

“What is this place? These are not death tombs, Adranath.”

“No, child. It was the only way we could follow. The sleep of eternity holds the Meer here." He walked through the chamber to a tomb whose lid had not been sealed. "But someone had to stay. Someone had to watch for the Juka." He turned to her. "The duty was mine. After what I had done... what I had once done and was undone... I had to atone.”

“You have been watching and waiting... for thousands of years?!” She understood the madness that now seemed to plague the old eternal. After centuries and centuries of seclusion in this land he had lost a bit of his composure. Eternals would exist forever but in solitude even an immortal mind had to suffer over such a great expanse of time.

“The Meer gave up their home so that we could wait for the time when the struggle for balance could begin anew. The fortress has returned. The Juka have returned. You, my child, you have returned." He turned in a full circle, taking in the hundreds of tombs that had waited for him for endless centuries. His task was now complete. "Now rise, my people! Rise and continue the fight!”

He slammed his staff down onto the floor and held his hand aloft. A bright blue light shot forth from his fingertips and enveloped the entire room in its glow. Dasha shielded her eyes slightly and looked back and forth as the light bathed every surface and faded. At first it was imperceptible but bit-by-bit the sounds of movement could be heard. Beside her, a tomb cracked open and the lid drifted aside. Another eternal rose from the sarcophagus and turned to meet her gaze.

“Dasha! Upon awakening I could have hoped to see nothing so wonderful as the sight of you returned to your people!” Dasha could only stare in amazement. The entire race had slept for centuries here so that they may once again devote themselves to the balance. All was not lost.

“Watcher, you have done well." The eternal said to Adranath. "Your devotion has saved us all and we are in your debt.”

Adranath turned to Dasha, the look of a frightened child on his face. “I... am I forgiven, Dasha? After all I have done, all that I would have done... all of this that has occurred... I can be the only one to blame. Had I not been such a hasty fool in that time, we would not have had to bring ourselves to this new world. After all this time... have I been redeemed?”

She smiled and took his hand gently. “You once told me that wisdom accepts the inevitability of change.”

One by one, the tombs opened and an entire race awoke from their sleep.




ダーシャ(Dasha)は身を起こそうとしたが、刺すような痛みに手足が震えて動けなかった。彼女に覆いかかる影はゆっくりと近づいて来た。彼女は、バランスを保てるかどうかもあやしかったが、今一度身体を立て直そうともがいた。そして素早くもう一度ヒールの呪文をかけようと試みた。

呪文の影響でダーシャの頭の中は渦を巻き視界がぼやけたが、乱れる意識の中で、かすかな光が彼女の手の先から広がり身体全体を覆うのが見えた。その効果はわずかなものだったが、力の波動が手足に行き届くのを感じた。地面を押しやるようにして震える足でようやく立ち上がると、影の人物は手を伸ばせば届く距離まで近づいて来た。

『思い通りにはさせません…あなたは殆ど破壊してしまったのです…。』ダーシャは切れ切れの息でそう言うと膝を折った。『なりません…そうさせる訳には…。』彼女の視界は舞い踊る光の球で満たされ、身体の力が朝日の中の霧のように消え失せるのを感じた。彼女が最後に見たものはアドラナス(Adranath)の顔だった。彼の頬には涙の筋が光っていた。

『もう待つのは終わりじゃ。』彼はそういうとダーシャを子供のように抱き抱えた。彼の涙は勢いを増し、すすり泣きにと変わった。『お前は我等の元に帰って来たのじゃ。長いことかかったが、ついに帰って来たのじゃ!』

炎のきらめきが、ダーシャの閉じたまぶたの裏にオレンジ色の花を咲かせた。彼女は顔をしかめると、こめかみを押さえ、ゆっくりと目を開いた。小さなたき火の向こう側にはアドラナスが、優しく微笑みながら座っていた。彼女はすばやく起き上がると身をこわばらせた。

『あなたは何をしたのですか?ここはどこですか?』彼女は迫った。彼女の彼に対する永遠の尊敬の念は、彼が指揮して招いた混沌の様を目の当たりにした時から消えてしまっていた。戦で彼の呪文がイルシェナーの大地を揺るがせていく様は、彼女の悪夢として一生残るであろう。

『心配しておったぞ、娘よ。お前の体力が元に戻るまで何日もかかった。』アドラナスは彼女の問いが耳に入らないかのように言った。『これで我々は完璧に戻れた。すぐにも我々の為すべき事を為さねばならぬ。それはもう長い事待たされたからな。』彼は微笑んで彼女を見つめた。

ダーシャは彼の言葉を飲み込もうと、しばらく沈黙していた。このエターナル(eternal)は気が狂ってしまったのか、それとも彼女を操ろうとしているのか定かではなかった。『アドラナスよ、何をしたのかお教え下さい!あなたの狂気が私達に何をもたらしたと思うのです?ここはどこなのですか?』彼女は言いたい事が伝わったかどうか、彼の瞳を探ったが、その目は夢を見ているかのように虚ろだった。

『山じゃよ、ダーシャ。山の姿に気づかぬか?今となっては、そう様変わりしてはおらんじゃろう?』彼は立ち上がり、雄大な地形を見渡した。『今となっては…』

『このような場所は一度も見た事はございません。』ダーシャはゆっくりと言った。自分の言葉に自信が持てなかったのだ。この場所には、確かに見覚えはある。『この場所は…私の故郷を思い出させます。しかし、これは私達の世界の贋物か何かでしょう。安っぽい模造品です!』彼女も立ち上がり、アドラナスの前に立った。彼女が彼の肩を強く掴むと、お互いの視線がぶつかった。『ここで何が起こったのか教えて下さい!私達の故郷はどこに行ったのですか?一体どうやってジュカ(Juka)を…』

『ジュカ!』彼は目を見開き彼女の手を握った。『その時が来たのじゃ、ダーシャ。長い間見張っておったが、ついに再びその時が来たのじゃ。我々の均衡を回復する機会が新たに始まったのじゃ!』

『均衡ですか?』彼の言葉に、彼女の心はわずかに和らいだ。『たった数日前、あなたはすっかり復讐の虜になっていたというのに、今さら均衡に希望を見いだしたというのですか?』

『数日じゃと?』彼は困惑し、顔をしかめた。『何世紀も前の事じゃ…お前は知らん!娘よ…お前は知らぬはずだ…もう数え切れぬほど昔の事じゃ。あの大破壊は…座りなさい。いいから座るんじゃ。』彼は彼女の手を取り、たき火の向こう側へと導いた。『知っておくべき事がある。』

彼女はゆっくりと腰を降ろすと足を楽にした。師の態度に彼女は強い関心を覚えた。『知っておくべき事とは何ですか?』

『お前は行方がわからなくなっていたのじゃよ、ダーシャ。お前は時空間から消えていたのだ。お前とジュカの砦は、そっくりあっと言う間に消えてしまったのじゃ。歴史から引き剥がされてしまったのじゃよ。エクソダス(Exodus)の仕業じゃ!』

『しかし、私は砦からあなたの姿を見ました…あなたが呪文をかけると、全てが光に飲み込まれてしまったのです。』彼女の周囲に蒸散していた狂気の中からその出来事をそっくりたぐり寄せる為に彼女の記憶は張り詰めた。

エクソダス!魔術師め、姿を見せろ!

アドラナスの説明の異常さに彼女はぞっとする思いを抱き始めた。ここは故郷。時を経て山は丸みを帯び、地形も変化はしてきている。数日前魔法の炎と爆風が吹き荒れた場所には、見た事もない植物がはびこっている。でも…それはもっと前の事だったのであろうか?

『いったいどのくらいの間?』ダーシャは腕組みをした。身体の中に寒気が走るのを感じた。彼女の世界は、もはや失われてしまっていた。かつて彼女の仲間によって使われていた魔法は色褪せ姿を変えていた。彼女の呪文の力が弱くなっているのももっともな話だった。彼女の家は、今や望むべくもなく歴史に埋もれてしまっていた。『一体私はどれくらいの間行方知れずになっていたのですか?』

『何千年もの間じゃよ…とてつもなく…とてつもなく長い間じゃ。』彼は彼女を待っていた間の一瞬一瞬を思い出すかのように宙を見つめた。『とてつもなく長い間、わしは見張っておった…そしてついにその時が来たのじゃ。』

『あなたは…そんなに長い間待てる訳がありません!一体どうやって?!』

『エターナルの持って生まれた性質を忘れたのか?娘よ。』アドラナスは優しく微笑んだ。『わしはその見張り番(watcher)になったのだ。責任はわしにある。わしは…わしは自分のした事の償いをせねばならぬ…。彼の微笑みは不安な表情に変った。『あのような狂気…わしは全く愚か者よのう、ダーシャ。』

『お願いです…アドラナスよ…。』ダーシャは彼の肩を優しく抱いて優しい声で言った。『ミーア(Meer)はどこへ行ったのですか?私達の種族は自らが忘れられる事など許さないはずです。私が…さらわれた後、何が起ったのですか?』

『夢の到来じゃ。』涙が一粒彼の瞳からこぼれ出た。『私が引き起こしたあの大破壊…全ては失われてしまったのじゃ。ジュカ、砦、ミーア…わしらは自らの終わりを夢見て、しかしそこから疎外されてしまったのじゃ。その夢の中で私は…わしは皆を殺してしまった。全員、わしの病んだ復讐心のせいで死んでしまったのじゃ!』彼は気を取り直し、その大虐殺がすでにわずかな記憶に取って代わった事を思い出した。『その時じゃ、わし等が知ったのは。それはエクソダスのした事だと。ジュカは均衡を崩す為にさらわれて行った。お前も…さらわれて行ったのじゃ。』

ダーシャは、再びその老人にかける言葉を失ってしまった。何千年もの間、夢の中で二つの種族の虐殺を目撃し続ける事の苦痛は、罰としては充分ではないか。彼はエクソダスのもくろみによって、自らの罪により疎外されてしまったかの様だ。『しかし、ミーア…私達の種族はどうなってしまったのですか?アドラナスよ。私達二人がミーアの生き残りなのですか?』

『時は来たり!』彼はすっくと立ち上がり再び微笑んだ。『来い、来るのじゃ娘よ!お前は我等の元に帰って来た、そして今や覚醒の時はすぐそこまで来ているのじゃ。』

彼はダーシャの手を取り、彼女が身を起こすのを手伝うと、きびきびした足取りで歩き始めた。見知らぬ土地で彼女が従うべき者は他になく、行く手に何が待ち構えているのかわからぬまま、彼女は彼の後を追った。二人は沈黙したまま一時間近く歩き続け、ついに山のふもとに辿りついた。草むらの中に小さな空き地ができていた。以前彼女が命からがら逃げ出したジュカの砦の場所からさほど離れていない場所であった。

アドラナスが手で複雑な曲線を描くと、細かい光の塵が埃のように彼からこぼれ出した。彼が手をパンと叩くと光は地面に落ち、揃って渦を巻き、一つの明るい点を形作った。光は地表に沿って広がり、四角い石の壇を形作って消えた。丁寧に彫り出された石の頂上には、磨かれた木製の壇と光り輝くルーンの様な物が埋めこまれていた。

『来るのじゃ。』アドラナスがダーシャに手を差し伸べると、彼女は疑わしそうにその手を取った。二人が揃って木製の壇の上に登るとその姿は消えた。彼等が再び姿を現した時、ダーシャは自分達が地下室の様な所にいるのがわかった。巨大な部屋の端から端まで、墓が整然と並んでいた。松明の灯がそこかしこに点々と燃えている。この場所を作ったのがミーアである事は確かだったが、彼女は一度もここへ来た事はなかった。

『この場所は何なのですか?死人の墓ではないですね、アドラナス。』

『違う。我々が従う道はこれしかなかったのじゃ。ここではミーア族が永遠の眠りに抱かれておるのじゃ。』彼は、蓋が閉じていない墓に向かって部屋の中を歩み続けた。『しかし、誰かが残らなければならなかった。ジュカを見張る誰かが。』彼は彼女の方に向き直った。『その役目はわしのものだったのだ。自分のしでかした事のせいで…私がかつてしでかした事と、まだ出来ていない事の為に…償いをせねばならなかったのじゃ。』

『あなたは…何千年もの間見張り、そして待っていたというのですか?!』彼女は、ついにその年老いたエターナルが狂気に蝕まれたのだと思った。何世紀もの間この地で隠遁生活を送ったせいで、いくらかネジが緩んで来ているのだと。エターナルは永遠に生き長らえる事ができるだろう。しかし、孤独な暮らしを続けていたらいかに不死身の魂とて広大な時の流れに苦しむであろう。 『ミーアは住む場所を放棄したのだ。そうすれば我々は均衡への戦いが復活するまで待つ事が出来る。砦は帰還した。ジュカは戻って来たのだ。そしてお前、お前も戻って来た。』彼は、何世紀もの間彼を待ち続けていた幾百もの墓を囲む正円の中に入って行った。彼の任務は遂行された。『さぁ、目ざめよ我が民!起き上がり戦い続けるのじゃ!』

彼は杖を床に叩きつけると片手を高く挙げた。彼の指先から放たれた眩しく青い光が部屋の隅々まで輝きで満たした。ダーシャは少し目を蓋いながら、光が全ての表面を包んで消えて行く様を見届けた。最初は気づかない程であったが、ゆっくりゆっくりと何かが動く音が聞こえて来た。彼女の傍らで、一つの墓石がひび割れて口を開け液体が流れ出て来た。また別のエターナルが石棺から起き上がり彼女と視線が合った。

『ダーシャ!お前さんが我々の元に戻って来たという光景に、目覚めた途端に出会えるとは思いもせんかった!』ダーシャはただ、驚きの余り見つめるだけだった。何世紀もの間、種族の全員がここに眠っていた。再び均衡の為に身を捧げる事ができるように。皆、姿を消したのではなかったのだ。

『見張り番、良くやったぞ。』そのエターナルはアドラナスに言った。『お前の献身が我々全員を救ったのだ。恩に着るぞ。』

アドラナスはダーシャに向き直った。怯えた子供のような表情だった。『わしは…許されたのかの?ダーシャ。わしがしでかした事の全て、わしがしでかすかもしれなかった…起こった事の全て...わし一人が責めを負えば良いのじゃ。あの頃、わしはなんと言うせっかちな愚か者だったのだろう。このような新しい世界に来なくても良かったろうに。全てが終った今…わしは放免されたのじゃろうか?』

彼女は微笑み、優しく彼の手を取った。『以前あなたは教えてくれました。智慧は変化の必然性を受け入れる、と。』

一つまた一つと墓が開き、やがて種族全体が眠りから覚めた。